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飲食店DXの潮流とロボット導入事例にみる最新事情
プロデュース・アドバイザーとして約80社を手がけた飲食コンサルタントが語る「飲食店DX」について2023年08月08日 カテゴリ:コラム
執筆者:株式会社タベル 代表取締役 鈴木 正治氏
飲食店DXの潮流 大手と中小の導入実績の差
近年、飲食業界におけるDX化は急速に進展しています。DXの目的とは、企業や組織が競争力を高め、ビジネスの成果を最大化すること。そこで飲食店DXの潮流を見てみると、大手チェーン店と中小企業の間には導入実績の差があることがわかります。大手チェーン店は組織規模やリソースの面で優位に立っており、自社ブランドの価値と競争力を高めるために、DXの導入においても積極的な取り組みを行っています。デリバリーサービスの充実、オーダーシステムや予約システム、さらには自社アプリケーションによる顧客情報管理や、それを活用して集客・販促活動までをデジタル化することで効果的な成果を上げています。
一方で中小企業は資金や専門知識の不足などさまざまな課題に直面しており、DXへの取り組みが遅れている場合があります。しかし、市場競争の激化や消費者ニーズの変化に対応するためDXの重要性を認識し始めています。特にCOVID-19のパンデミックが飲食業界に与えた影響から、オンラインサービスの存在感と重要性が一層浮き彫りになりました。また国からの補助金も追い風となり、飲食店を展開する中小企業もDX化の風潮がより高まっています。
機能や効果を掛け合わせた飲食店DXの事例
飲食店が最も多く取り入れているDXの一つ、予約システム。これを活用することで来店予測と需要予測ができ、予測をもって食材を活用することでフードロス対策も可能となります。それだけでなく、正確な受発注、在庫管理や棚卸しの効率化も図れ、従業員の就労時間短縮にもつながっています。そして先述のコラム「迷惑行為から店とお客さまを守る対策とDXを活用した予防策」でも挙げた、ドタキャン予防やテーブルの長時間占拠の対応にも予約システムは有効です。
現在では事前予約だけでなく、繁盛店や観光地の人気店では、当日予約の順番待ちによる混雑解消のためのシステムなどを取り入れています。現在の待ち状況が手元の端末で把握できたり、案内の順番が近づくと自動メールでお知らせしたりと、お客さまの待ち時間解消はもちろん、お店の案内対応の負担軽減にもつながる事例です。またテイクアウトやデリバリーが盛んな店舗では、注文発券機と順番の待ち時間を視覚的に伝える機能を併せ持ったDXも多く見るようになりました。
さらに、近年増えたセルフオーダーシステムでは、顧客自身が注文してキッチンへオーダーを伝えることにより、従来のスタッフが受け答えする注文方法と比べて効率と正確性が向上。例えば注文を顧客の携帯端末からオーダーさせるモバイルオーダーシステムであれば、専用アプリケーションのダウンロードや、Webサイトからの注文をきっかけに自社のSNSやアプリケーションへの流入を促し、顧客情報管理や情報発信などもスマート化できて大変効果的です。
飲食店DXの最新事情 ロボットの導入と新たな雇用機会の創出
ロボットの導入も飲食店にとって大きなDX化ではないでしょうか。例えば配膳ロボットなどは、大手チェーン店が先行して導入しているのを目にするようになりました。大きな効果としては人材不足解消やピークタイムでの対応の効率化です。ピーク時だけでなくオフピーク時も、お料理を運ぶという行為をロボットが担うことにより、スタッフが別の作業やお客さまのフォローなど営業中のタスクに対してキャパを広げられるため、新たなサービス向上のきっかけにもなると感じます。
その他、調理ロボットの導入事例もあります。以前導入したお寿司のシャリを握るロボットでは、グラム数の統一や圧力の変化でまるで人が握ったような食感に調整できることに驚きました。また麺の茹で具合やスープの量、味を正確に調整して、常に高品質な調理を可能とするラーメン用ロボットなどもあります。このように厨房内でのさまざまな調理を自動化することにより、業務の効率化が図れることが実例としてあります。
こうしたフードテックの進化はさらに加速しており、私は3Dフードプリンターにも着目しています。3Dフードプリンターとは、ペースト状の食材などを用いて、食品そのものを立体的にプリントできる機械のこと。今後発展していけばアレルギー対応やヴィーガン食など、多様な食のあり方に対し柔軟な対応が可能となるでしょう。既に3Dプリンターの導入実績がある会社では、材料となるあらゆる食材を粉末にする機械の開発を行っています。
さらに清掃でもロボットが導入されており、チェーン店の一部の店舗では、店内の床面を清掃する自律型ロボットの導入が見受けられます。私の知人のお店では、夜間に家庭用自動掃除機を稼働させてスタッフの負担を軽減し、衛生面だけでなく別のタスクやサービスの向上を図るといったコンパクトな事例も見られました。
今後ロボットの開発が進めば、費用面でも負担の軽い多様なロボットが登場し、導入のハードルも低くなっていくはずです。
またこうしたスマートキッチン化や業務効率化によって、ヒューマンエラーの大幅な削減が期待できるので、障がい者や高齢者の就労支援や自立支援など、社会との接点創出につながる新たな雇用機会も生まれてきています。今後、こうした就労支援や雇用創出は大手チェーン店だけではなく、中小企業の飲食店でも視野に入れて取り組む必要があり、それにはDX化が欠かせない条件となっていくことでしょう。
このようにお客さまの来店、オーダーから調理、決済までの一連の流れを、DX化とフードテックを組み合わせることで、人材不足の解消や店舗営業の効率化を図れます。また一定の品質と衛生基準、営業効率を保証できるので、顧客満足度の向上や環境への配慮、社会的問題への取り組みへとつながる重要な要素になると感じています。
DX化による顧客エンゲージメントとホスピタリティーの変化
これらのDX導入に対しては、顧客エンゲージメントの変化に伴う、今までの飲食店のホスピタリティーに対する考え方の変化も重要となります。
昔からおもてなしなどが大切とされている日本の飲食店。DXを取り入れることにより、来店から支払いまでがスムーズになることで、お客さまが飲食店に求めるパフォーマンスの水準は上がり、また変化しています。一方で、コミュニケーションやサービス提供は限られた接点で発揮されるため、より効果的で積極的な接客対応が、顧客エンゲージメントの向上につながります。またデータ分析や顧客情報が活用可能となったことで、顧客の購入履歴や好みなどの情報を基に、より顧客一人一人に合わせた対応が可能となりました。記念日などの特別な日や誕生日のサービス、スペシャルメニューのように、パーソナライズ化された提案をするなど特別感を提供する役割が重要となるのです。
今後、店舗やスタッフのホスピタリティーなどは、テクノロジーと人間の相互作用を通じた独自の魅力を発揮する必要があります。テクノロジーの進化によって自動化や効率化が進む一方で、人間の温かさや感性が活かされた、店舗特有のサービス提供力が求められていくでしょう。デジタルツールと組み合わせて顧客の体験を豊かにする方法を見つけ、いかに顧客とのつながりを強化できるかが重要な時代になってきたのだと思います。
今回は株式会社タベル 鈴木氏に飲食店DXの事例に関するテーマで執筆いただきました。
本コラム内で取り上げているセルフオーダーシステムやモバイルオーダーシステム、配膳ロボット、清掃ロボットなどの飲食店向けソリューションはNECプラットフォームズにて提供しております。
ぜひ、お気軽にお問い合せください。
株式会社タベル
代表取締役 鈴木 正治氏
調理人として4年、マネジメントで21年の25年飲食業界で従事。和食料亭(東京) で修行後にフレンチに転職。その後、数社にて店舗マネジメント、新店舗立ち上げなどの業務に従事。現場優先の視点でチームビルディング、店舗オペレーレーションの見直し、業態開発、プランニングによりケータリング事業や、ゼロから全国へ一斉に仕掛けたビアガーデンの基礎構築チームリーダーを担当。その後、フレンチレストランを開業。レストランの運営の傍ら大手企業のプロデュース、アドバイザーを手がける。
自社運営レストランを事業譲渡後、飲食店の経営戦略、運営、人事、企画に従事(最大従業員約400名をマネジメント) 海外事業部を立ち上げ、マネジメント後に帰国。現在フリーランスで大手企業から小規模店までを一貫してプロデュース、アドバイザーを請け負う。
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