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外食企業本部も現場も知っておきたい、Z世代社員の教育
プロデュース・アドバイザーとして約80社を手がけた飲食コンサルタントが語る「飲食店DX」について2023年06月13日 カテゴリ:コラム
執筆者:株式会社タベル 代表取締役 鈴木 正治氏
Z世代とは 特徴とZ世代以前の教育の差
Z世代とは、生まれたときからネットのある環境で育った世代であり、「デジタルネイティブ」と言われています。国内外でデジタル環境が当たり前のように成長したことにより、ソーシャルメディアなどを通した幅広いコミュケーション、情報収集が可能な世代です。以前の世代に比べ、よりさまざまな意見や文化に触れ、人種、性別などの違いや多様性を尊重するとされ、また社会課題、環境意識の高さや、自己表現とクリエイティビティに重きを置く傾向もみられます。
これらの特徴は一般的な傾向であり、すべてのZ世代が同じ特徴を持っているとは限りません。国や地域、個々の経験、背景によってさまざまなので、過度に一般化してしまい一律に当てはめるのには注意が必要です。
しかし我々のように公衆電話やポケベル、調べ物には図書館や分厚い書籍を手にした経験を経てデジタル時代に入った世代と、最初からスマートフォンを手にしていた世代では、考え方に大きな差が生じるのは歴然だと思います。
そうした差異から近年、飲食業界では従来の教育手法が機能しづらくなるという問題が浮上しています。またそのような教育手法を続けてしまうと、Z世代人材の離職につながるケースも。
具体的にはどのような違いがあるのでしょうか。
まず1つ目の違いは情報へのアクセス方法です。Z世代は常にネット環境が手元にあるため、情報を容易に入手し迅速に消化する能力が高く、以前までのように書籍や専門誌を利用することが少なくなりました。
2つ目に学習スタイルです。Z世代はインタラクティブ(双方向的)な環境を好むため、実際に行動して学ぶこと、自分で試行錯誤してスキルを向上させることを重要とします。対して以前の世代までは伝統的な教育方法や、体系的なトレーニングとスタイルを望む傾向があります。一方的なコーチングや、机と分厚いテキストに向き合ってコツコツと……という昔ながらの学習イメージは、Z世代には受け入れられにくいかもしれません。
3つ目はフィードバックへの反応です。Z世代はリアルタイムのフィードバックを重視し、迅速な改善を求めます。一方、以前までの世代はフィードバックに対して時間をかけて考えを吟味し、ゆっくりと反応、改善する傾向があります。
このようにZ世代と以前の世代とでは価値観が異なり、スタッフ教育にも明確な違いが存在しています。
明確な目標設定と従業員エンゲージメント向上が教育のポイント
Z世代の教育において重要なポイントとして「適切な目標設定とフィードバック」「従業員エンゲージメント」に着目したいと思います。
まず目標は具体的かつ明確に設定し、継続的に教育とトレーニングを織り交ぜ、個々人の関心や成長に合わせたものにする必要があります。例えば、ただ「売上を向上させる」と伝えると、トップダウン的な印象を抱かれてしまう。そうではなく「新規顧客獲得機会を増やしたい。そのためにどうすれば…」と伝えながら目標を具体化していくほうが、「なぜそれをするのか」という目的や理由を重視するZ世代には有効です。
また、1on1ミーティングなど定期的なコミュニケーションを取り入れ、素早いフィードバックを通じて、成果を評価することも重要です。具体的な改善点や目標を共有することで従業員のモチベーションを高め、フィードバックは適時に具体的に行う。「○○ができている」というポジティブ要素を強調するだけではなく、そこから成長するためのアドバイスやサポートも大切になります。
そして「従業員エンゲージメント」を高める必要性もあります。一言でいえば、従業員が会社の理念にどれだけ共感し、貢献したいと自ら思えるか。先述の通り、Z世代は社会課題や環境への配慮を重視します。つまり企業の社会的責任(CSR)や持続可能性についても高い関心を持ち、それが自分の働く場所でも実践されているかを求める傾向があるのです。自己実現ややりがいを求め、組織に参加する意欲も高い彼らの教育においては、社会的関心を引きつけ、主体的な学びを促す環境を提供する必要があるでしょう。
具体的には、インタラクティブな学習やグループプロジェクト、チームワークを重視した教育方法を取り入れることが効果的だと考えます。私の周りでも実際、イベント企画で会社としてSDGsに取り組む一環で、「フードロス」などをテーマに従業員同士で話し合い、備品やメニュー構成、企画などにそのアイディアを取り入れる。こうした双方向的な機会を定期的に開催することで、従業員の意欲的に学ぶ姿勢が養われ、会社の成長を引き上げている事例があります。
Z世代のトレーニング、フィードバックにもデジタルツールの活用を
Z世代への教育に期待され、外食産業でも導入されているのが「デジタルトレーニング」です。大手外食産業などでは、オンライントレーニングプラットフォームの構築や、VR空間にて仮想的に技術や接客トレーニングを行うプログラムなどがいち早く導入され、スタッフスキル向上の実績もあります。また簡易的に作成、使用できる動画マニュアルサイトを、自社独自のデジタルトレーニングに使用しているなど、規模の大小を問わず導入する会社は多く見えてきています。
こうしたデジタルトレーニングのメリットとして挙げられるのは、全国の店舗で一貫した教育を提供し、従業員は自分の都合に合わせてアクセスができることです。店舗数が拡大しても教育体制が一貫していなければ、Z世代にとって組織に対する疑問につながり、不信感を抱かれてしまう。デジタルトレーニングはこうした本部と現場のジレンマ解消、またトップの意向や会社のコンセプト、理念を従業員に浸透させるのにも役立ちます。
その他、テクノロジーを活用したデータ分析が従業員のパフォーマンス向上につながる例もあります。私の顧問先の会社では、顧客フィードバック(口コミなど)を収集し、優れたパフォーマンスを持つ従業員を特定して適切な評価をすることで、モチベーションと組織に参加している意識を高めることに成功しています。また最近では外部のトレーニングや専門コースなどの参加を奨励したり、キャリア開発のコーチングやメンタリングプログラムを提供する事例も少なくありません。自社だけでなく、社会性や多様性に生きるZ世代は外的要因も重要としています。
こうしたデジタルトレーニングをはじめとする最新事例の導入は、時代の変化に対応する能力を養います。今後の外食産業において持続的な成長と競争力を確保するために、不可欠となっていくでしょう。
Z世代教育のために経営者こそが学ぶ姿勢を
私が多くの経験を積んだのは「見て覚えさせる」「的確な説明や指導なしに現場に立たせる」「飲みニケーション」などの言葉があった時代です。
現在では、大企業だけでなく中小企業でもデジタルテクノロジーを利用し、研修プログラムや動画による指導が導入されています。また、社会的問題に取り組みチームコミュニケーションを求め、ビデオ会議ツールやSNSの活用によってオープンで建設的な対話の時代に教育の現場は移行してきたことにより、入社後のミスマッチや離職率が大幅に変わってきたのが感じられます。
テクノロジーに親しんだ世代による教育面の変化に対して、特徴を理解しつつ柔軟な対応が不可欠となった今、従来の教育で成長してきた我々の世代も、デジタルテクノロジーに対して理解を深め、適応しなければなりません。Z世代の主体的な学びをサポートするためにはまず、経営者が新たな教育法を率先して学ぶ必要があるのです。
株式会社タベル
代表取締役 鈴木 正治氏
調理人として4年、マネジメントで21年の25年飲食業界で従事。和食料亭(東京) で修行後にフレンチに転職。その後、数社にて店舗マネジメント、新店舗立ち上げなどの業務に従事。現場優先の視点でチームビルディング、店舗オペレーレーションの見直し、業態開発、プランニングによりケータリング事業や、ゼロから全国へ一斉に仕掛けたビアガーデンの基礎構築チームリーダーを担当。その後、フレンチレストランを開業。レストランの運営の傍ら大手企業のプロデュース、アドバイザーを手がける。
自社運営レストランを事業譲渡後、飲食店の経営戦略、運営、人事、企画に従事(最大従業員約400名をマネジメント) 海外事業部を立ち上げ、マネジメント後に帰国。現在フリーランスで大手企業から小規模店までを一貫してプロデュース、アドバイザーを請け負う。
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