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迷惑行為から店とお客さまを守る対策とDXを活用した予防策

プロデュース・アドバイザーとして約80社を手がけた飲食コンサルタントが語る「飲食店DX」について

2023年07月25日 カテゴリ:コラム

執筆者:株式会社タベル 代表取締役 鈴木 正治氏

飲食店での迷惑行為 昔からの事例と近年増加の背景

SNSで拡散された飲食チェーン店での迷惑行為が問題視され、世間を賑わせたのは記憶に新しい事象です。ごく一部の注目を浴びたい発信者による迷惑行為が横行し、多くの飲食店は改めて対応策や予防策を見直す機会になったと思います。

では実際、SNSで拡散されたような事例だけが飲食店にとっての迷惑行為だったのでしょうか。

昔から多くあった迷惑行為の一つに、予約の無断キャンセルがあります。予約をしたにも関わらず来店しなかったり、土壇場でキャンセルされたりということは多くの飲食店でも経験があるはずです。

特に年末になると飲食店は繁忙期となり、中〜大団体の予約が取りづらくなる傾向にあります。それに対して、幹事が色々なお店に問い合わせ、いくつか候補のお店を先に予約しておくことも。その後、どのお店を予約していたか忘れたり、事前キャンセルを忘れたりすることで、予期せぬ売上減少や食材ロスなどの大きな被害を受ける事例は大型店舗によく見られました。

店員が困っているようす

その他、テーブルの長時間占拠や無作法な行為、マナーの欠如した迷惑行為の事例もあります。スタッフの対応に不満を感じたお客さまが「お店が火事だ」と嘘の通報をしてお店に消防車を呼んだことがありました。また、変わった例では、私が働いていた中規模のレストランで、年末に若いカップルが大喧嘩をし始めて多数のお客さまに迷惑がかかり、全テーブルに謝罪と飲み物を1杯ずつサービスした経験があります。

このように当事者が思いもよらない形の迷惑行為なども多くある中で、近年、飲食店での迷惑行為は増加しているという声が挙がっています。

その要因の一つと考えられるのが、SNSの普及です。上記のような今でもありうる迷惑行為に、近年はSNSの拡散力が及ぼす多大な影響が付与されました。食べ放題での過度な食べ残しや、調味料の無駄づかいなどの昔からある迷惑行為も、SNS投稿のためより過剰になっています。

例えばSNS映えを目的にお客さまが勝手にお料理に手を加え、見た目を変えてしまう迷惑なフードスタイリング行為や、そもそもお料理の写真を撮るだけで満足してほとんど食べない、捨ててしまうなどの事例も見受けられます。またSNSで注目を浴びたいがために食べ放題で食べきれないほど注文する、七味唐辛子や粉チーズなどの卓上調味料、ネギや紅ショウガなどの無料トッピングを過剰に使い、挙句の果てに残すなど、食材のロスに通じる迷惑行為も増加傾向です。

さらにお店のサービスに不満を持ったお客さまがSNS上で誹謗中傷にあたる投稿を行い、それが拡散され飲食店の評判が大きく傷つき、集客や収益に影響を及ぼした事例も珍しくありません。SNSの登場と普及は、飲食店に対する迷惑行為の幅と影響力を拡大したともいえるでしょう。

迷惑行為への対策方法 昔と今の違い

では実際に被害に遭った際にどのような対応が推奨されているのでしょうか。

昔や近年でも迷惑行為が発生した場合には、当事者と直接の対話による解決が一般的な方法です。ただし近年ではコミュニケーション手段も多様化し、迷惑行為もSNSやインターネットを通じて広範囲に拡散されるため、飲食店はより迅速かつ大規模な対応が求められるようになりました。それに伴い、デジタルツールやオンラインシステムを活用して対処する手法が一般的になってきています。

例えば、予約システムを活用した予約内容の確認やお客さまへのリマインド、オンライン上での悪質なレビューなどに対する早急な対応や管理など。これにより、迷惑行為への対策だけでなくスタッフの対応なども管理側が把握できるようになり、来店見込みのお客さまへの安心や信頼にもつながりやすくなりました。先述のGoogleビジネスプロフィールの管理も、対策として実に有効です。

ただこうしたデジタルツールを活用するためにも、予約のリマインドに対する行動、迷惑行為への対応や危機管理などに対する緻密なマニュアル作成を推奨しています。例えば「3度のリマインド連絡に対してレスポンスのなかったお客さまをキャンセルにする」また「スタッフや他のお客さまに対して危険を感じる迷惑行為の場合、時間帯責任者の判断で通報を許可する」などが例に挙げられます。

その他に顧客行動データを収集して、事前に起こりうる迷惑行為の傾向や要因を把握し、効果的な予防策を現場スタッフと共に考案する飲食店も増えています。迷惑行為への対応を想定したロールプレイを行うのも効果がありました。

いかにシステムを導入しても、実際にトラブルが起きたときに対処するのは人間です。こうした日ごろからのマニュアルの徹底やスタッフトレーニングの強化によって、デジタルツールの有効性も増し、迷惑行為への対策がよりスムーズになるでしょう。

迷惑行為に対するDXを取り入れた予防策

先に取り上げた飲食チェーン店では迷惑行為の抑止と被害早期発見のため、監視カメラの設置やそのカメラ映像の監視員を常駐させています。また衛生面の管理に対する徹底した取り組みが多くの利用者から評価され、信頼を早期に取り戻しました。

こうした早期の対策も大切ですが、そもそも迷惑行為を発生させないための取り組みも重要です。

例えば、個人のスマートフォンや卓上の端末などを利用したモバイルオーダーシステムの導入。これらは、オーダー時のトラブルや悪戯的な迷惑行為の予防に効果を発揮しています。口頭で注文を伺うと「頼んでいない料理が来た」「注文したサイズと違う」などミストラブルの原因になり、時に店舗側に落ち度がない場合でさえクレームに発展することも。モバイルオーダーシステムを導入すれば店員の聞き違いによるミスや「言った・言わない」などのトラブルを予防でき、オーダーに割かれる人的リソースの削減にもつながります。また明らかに自分より年下のスタッフや慣れていない新人スタッフを狙って「このお酒を濃い目にしてほしい」などサービス外の無理難題を押し付けるという悪戯的な迷惑行為もよく見られました。近年、非接触型のモバイルオーダーシステムが普及したことにより、こうした事例もかなり減少していると感じます。

居酒屋

またお店がキャンセル料を支払ってもらえないという問題に対しては、予約時の確認からリマインド、キャンセルポリシーに則ってキャンセル料の請求を自動化する事前決済システムの導入などが、キャンセル料未払いの抑止につながるでしょう。そして近年主流になってきたフードデリバリーサービスでも、注文後にわざと不満というフィードバックをして、再配達や返金を要求するなどの迷惑行為が見られるようになりました。こうした行為を防ぐため、オーダーシステム上で注文履歴や顧客評価を分析し、信頼性の低い注文に対して対策を行うことも可能となってきています。

迷惑行為への対処には大きな力が割かれるものです。迷惑行為を発生さないための予防策として、デジタルツールの導入やデータ分析の活用が有効になる場合があります。

ヒューマンエラーの削減が今後の迷惑行為対策のカギ

今後は、例えばシステム侵入による予約情報の乗っ取りやデータの不正利用など、AIやプログラミングを悪用した迷惑行為なども考えられるのではないでしょうか。これにはAI技術への知見やセキュリティの強化などが対策として必要になってきます。このように、さらに新たなテクノロジーサービスの普及に伴い、迷惑行為の形態も変化していく可能性があるのです。より複雑化した詐欺行為やオンラインプラットフォーム上のトラブルなどに備え、飲食店経営者や責任者は常に新たなトレンドやリスクに対して意識を持ち、適切な対策を講じる必要があるでしょう。

結論として、迷惑行為は飲食店にとって大きな問題となり得ますが、適切な対応と予防策を講じてその被害を最小限に抑えることがなにより重要で、その対応はあくまでも人を介して行われていることを忘れてはなりません。大切なのは、あらゆるDXを組み合わせてスタッフの手間を軽減させ、ヒューマンエラーを減らすこと。そうすることで多岐にわたる迷惑行為の対策と予防が可能となり、経営の透明性を確保、しいてはお客さまとの信頼関係構築につながるのだと思います。

株式会社タベル
代表取締役 鈴木 正治氏

調理人として4年、マネジメントで21年の25年飲食業界で従事。和食料亭(東京) で修行後にフレンチに転職。その後、数社にて店舗マネジメント、新店舗立ち上げなどの業務に従事。現場優先の視点でチームビルディング、店舗オペレーレーションの見直し、業態開発、プランニングによりケータリング事業や、ゼロから全国へ一斉に仕掛けたビアガーデンの基礎構築チームリーダーを担当。その後、フレンチレストランを開業。レストランの運営の傍ら大手企業のプロデュース、アドバイザーを手がける。

自社運営レストランを事業譲渡後、飲食店の経営戦略、運営、人事、企画に従事(最大従業員約400名をマネジメント) 海外事業部を立ち上げ、マネジメント後に帰国。現在フリーランスで大手企業から小規模店までを一貫してプロデュース、アドバイザーを請け負う。

株式会社タベル

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