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ワークスタイル&組織開発専門家 沢渡あまね氏ワークスタイル&組織開発専門家 沢渡あまね氏

2021年12月23日 専門家インタビュー

突然のコロナ禍 中堅・中小企業はテレワークにどう対応した?

【第1回】ワークスタイル&組織開発専門家 沢渡あまね氏に聞く! コロナ禍の中小企業の現状と未来

インタビュー:あまねキャリア 代表取締役CEO 沢渡 あまね 氏

これまでさまざまな組織の改善・改革を支援してきた沢渡あまね氏。ご自身も「ダム際ワーキング」と呼ぶワーケーションを実践するなど、特に「働き改革」にも造詣の深い方として知られています。

今回は、コロナ禍前後における中堅・中小企業の働き方の変化と、今後中堅・中小企業が果たすべき働き方改革について伺ったお話を、3回に分けてお届けします。

ワークスタイル&組織開発専門家 沢渡あまね氏

コロナ禍により、中堅・中小企業の働き方は二極化

―――コロナ禍に直面して、中堅・中小企業の働き方はどのように変化したのでしょうか。

一言でいうと「二極化」です。

政府や各自治体の要請、IT導入補助金などの金銭的な後押し、世論の高まりなどが相乗効果をもたらした結果、好むと好まざるとにかかわらずテレワークを経験した企業は大幅に増加しました。

テレワークの4つのステージの図
出典:『どこでも成果を出す技術』(技術評論社 沢渡あまね著)
図1 テレワークの4つのステージ(テレワーク進化論)

図1を見ていただければわかりやすいでしょうか。これはテレワークの4つの段階を示した図で、私は「テレワーク進化論」と呼んでいます。

コロナ禍以前では一般的だった、すべての業務をオフィスで行う「テレワーク0.0」から、コロナ禍により、多くの企業がオフィスで行っていた事業の一部を例外的に自宅から行う「テレワーク0.5」へとなかば強制的に移行しました。

そこからこれまでの商慣習や組織慣習の中に理不尽な点を見出し、「ITツール/デジタルツールを使いこなすことができればさらに業務効率は上がる、事業の幅が広がる」と考え、従業員のスキルアップやITツール/デジタルツールなどに投資し、オフィスに依存しなくても業務を行うことのできる「テレワーク1.0」、さらにはデジタルならではの強みを活かし、新たなつながりを生む「テレワーク2.0」へと飛躍を遂げた企業が現れました。具体的には、新しい雇用形態の創出やワークフローの言語化、ビジネスモデル変革を進めた企業ですね。

一方で、「これまでの(出社・対面ベースの)コミュニケーションを取りながら業務を進めるやり方は快適だった」として、コロナ禍が収まったら元の商慣習や組織慣習に戻ろうとする企業や、もどかしさを感じながらも「テレワーク0.5」の状態のまま非効率に業務を進める企業もあります。

こうした二極化が進んだのかな、と私は捉えています。

進化のポイントは「経営陣」「現場」「環境・制度」の3点

―――その違いはどこから生じたのでしょうか。

大きく3点あると思います。

1点目は「経営陣、部門長がコミットしているか」。組織の長が変化・進化に対して本気で取り組んでいるかどうかは非常に重要です。企業の規模にかかわらず、また民間・官界にも関係なく、新しい方向へとシフトしている組織では、例外なくトップが「今までのしがらみをなくして新たなことをやるんだ」という気概を持って取り組んでいます。

2点目は「現場や各部門のチームがコミットしているか」。経営陣、部門長が重要だとはいえ、やはり現場も重要です。2つのうち、どちらが欠けても新たな成長は生まれないでしょう。社長は現場のことがわからない、現場は社長のことはわからない、そのような状況は社内の温度差を生みます。場合によっては社長直轄の旗振り役を立て、社長と現場の景色を合わせていくような取り組みも必要となるかもしれません。

そして3点目は「環境・制度」です。トップがいくら改革・変革を叫び、現場が優れた改善案を提案したところで、同調圧力に潰されてしまってはすぐに元に戻ってしまいます。将来のことを考え、デジタルを活用した業務環境、すなわち「デジタルワーク」環境の構築に投資をする、ITツール/デジタルツールを使いこなすことで新たな利益を生むことのできるような人材の育成に投資する、などの取り組みに対して、たとえ失敗したとしても「新しい取り組みをした」と評価するような評価制度、人事制度が必要だと思います。

管理職クラスのビジネスマン

デジタルワーク、まずは間接業務から

―――ITツール/デジタルツールへの投資というお話が出ましたが、具体的にはどのようなところに投資すればよいのでしょうか。

私は業務を大きく2つに分けて捉えています。1つ目は直接業務、営業活動、研究活動など顧客や世の中に対して直接価値を生む業務です。そして2つ目は間接業務。全社員が共通して行う勤怠管理、スケジュール調整、ミーティングほかのコミュニケーション業務などです。

私はよく「まず間接業務からデジタルワークに慣れてください」とお話をさせていただいています。その理由は関係する社内外の人数が多いからです。人数が多ければ、それだけ「ITツール/デジタルツールを使ったら業務が楽になった、効率化できた」と実感できる人数も増えますし、コストが下がった実感も得られやすいです。私はこれを「成長体験」「快感体験」と呼んでいますが、こうした経験によりデジタルワークへの移行の市民権が得られやすいんですね。

また、営業や研究開発など、特殊性・固有性が強い業務については企業内でもメンバーやワークフローの独自性が強い傾向にあります。そうした部分をいきなり変えてしまうことにはリスクも伴いますし、抵抗も強いでしょう。まずは汎用的な業務から始め、全員でITツール/デジタルツールを使う、という意識を合わせていくことが大切です。

オフィスで働く男性

デジタルワークで飛躍する地方の中堅・中小企業

―――テレワーク2.0への移行に成功した企業をいくつかご紹介いただけますか。

そうですね。今回のテーマ、中堅・中小企業に絞ってご紹介したいと思います。

まずは浜松市を拠点にメッキ製造業を営むA社。従業員は約50名で、自動車部品などの製造販売している企業です。創業69年の老舗ですが、「メッキ屋なのに海外展開」「メッキ屋なのにダイバーシティ」「メッキ屋なのに女性活躍」「メッキ屋なのにリモートワーク」など、新しい取り組みを通じて常に成長を続けています。

この会社の面白いところは、コロナ禍以前からデジタルワークへの移行と従業員の育成に投資していた点です。地方の製造業、しかも中堅・中小企業となると、当然、営業はルート営業、訪問営業、展示会への出展など旧来型のものになりがちです。この商慣習をアップデートしたいという社長の想いから、SFA(Sales Force Automation、営業支援システム)や女性社員の育成などに投資して、従来の「気合・根性・体力勝負」の営業から「知力勝負」の営業への転換を図ってきました。テレワーク、時短勤務でも成果を出しやすい体質へと変化を図ったわけです。

そのさなかにコロナ禍が起こり、旧来の営業活動はいずれも困難になりました。そこで、これまで培ってきたデジタルマーケティング、インサイドセールス、カスタマーサクセスなどのノウハウが活きる形となりました。結果として、これまで約4割に留まっていた県外の顧客の割合が7割まで増加したそうです。デジタルゆえに地域外の顧客との接点が増えた好例ですね。

もう1社、私の顧問先でもあるB社をご紹介します。こちらも浜松市で事業展開をしている、従業員約20名の企業さんです。もともとはウェブサイトの制作を請け負っていましたが、それには限界があるということで、やはりコロナ禍以前に第二創業を掲げて人材育成や女性活躍推進などのサービス提供に進出しました。

なかでも育児休暇者向けのオンラインスクールを提供する「育休スクラ」は新聞など各種メディアでも大きく取り上げられました。「育休」という共通の境遇にある人たちが組織を超えて集まり、メンタルおよび業務の改善、ビジネススキルの向上、キャリア構築などの考え方を身につけようというサービスです。結果として、育休を契機としてパワーアップし、デジタルを使いこなして組織を中から改革する中核人材として活躍するような景色の変化が現出しました。

デジタルワークのもっとも大きな利点は、「容易に境界を越えられること」です。ご紹介した2つの企業では、ITツール/デジタルツールを活用しながら、地域の壁や組織の壁を越えて事業を発展させました。

今後もこのような企業は増えていくのではないでしょうか。

ダム際ワーキング実践中の沢渡あまね氏

次回第2回では、具体的に中堅・中小企業においてどのような業務上の変化が生じたのか、中堅・中小企業においても本当にデジタルワークへの移行は必要なのかをお聞きするとともに、デジタルワークに役立つITツール/デジタルツールについてもご紹介いただきます。

沢渡 あまね

作家/ワークスタイル&組織開発専門家。
あまねキャリア 代表取締役CEO/なないろのはな顧問・浜松ワークスタイルLab所長/NOKIOOアドバイザー/エイトレッド フェロー。
浜松/東京二重生活。経験職種 IT x 広報で組織の景色を変える支援をしている。これまで350以上の組織の改善・改革を支援。
著書『バリューサイクル・マネジメント』『どこでも成果を出す技術』(技術評論社)ほか。

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