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株式会社ドキュメンタリーチャンネル
代表取締役 藤原 英史 氏
超高感度低ノイズカメラ 活用事例
専門性の高い記録映像を制作している株式会社ドキュメンタリーチャンネル 様では、超高感度低ノイズカメラ(型番:NC-H100、以下NC-H100)を使い富山湾の春の風物詩「ホタルイカの身投げ」の撮影に成功しました。
使用された感想レポートをお寄せいただいたのでご紹介します。
活用事例の詳細
超高感度撮影ができるビデオカメラのニーズ
筆者は生物を始め自然科学の映像撮影と制作を専門的に行う科学映像のプロである。自然現象をとらえるのに、様々な特殊機材を活用して常に最良の撮影方法を模索しているが、中でも、苦労が多いのが高感度撮影である。微弱な光を捉えるには、高感度のカメラや、明るいレンズがどうしても必要となる。現実的に限られた予算の中で、成果を上げるためには、機材の持つ性能を最大限に引き出すことが大切で、高感度撮影は自然科学撮影における永遠の課題の一つでもある。これまでに、日本電気株式会社製の超高感度カメラ(型番:NC-R550)を用いた撮影を行った経験があり、今回、その後継機として、NC-H100という新しいカメラを使う機会を得たので、ここにレポートしたい。
春の富山湾の風物詩に、「ホタルイカの身投げ」がある。深海性のホタルイカが、春、産卵のために浮上したとき、夜の浜辺に大量に打ち上げられる現象である。ホタルイカは、その名の通り、発光器を持つ「光るイカ」である。腕の先にある発光器を青白く発光させることができ、暗い海の中ではその光を消すことで捕食者の目をあざむき、逃れることができると考えられている。富山では、ホタルイカが浜辺に打ち上げられることを「身投げ」と呼ぶ。この時にも、ホタルイカは「腕発光器」を青白く光らせる。そのため、身投げが起こると、波打ち際にきらめく青白い光の帯が続く幻想的な光景が広がる。この現象は古くから知られているが、世界的に見ても富山湾だけでしか見られない珍しい現象である。しかし、どうしてそのような現象が起こるのかについては、まだ謎が多く残されている。その身投げ現象の超高感度撮影を行い、動画に収めるというのが今回の狙いである。
撮影機材の準備
NC-H100は基本的に監視用のカメラであり、収録機やファインダーなどが付属する一体型のカメラではない。そのため、屋外で使うためには一工夫必要である。まず、三脚に取り付けるため、映像業界標準の肩乗せ式カメラと互換性のあるSmallRig Japan株式会社製のベースリグにNC-H100を取り付けた。ベースリグの後端には、業務用のVマウントバッテリーを装着できるプレートを取り付けた。一本のバッテリーから撮影に必要な数種類の電圧を出力して、電源を分岐させることで、撮影システムに必要なすべての電力を供給できるようにした。また、カメラの上部にはトッププレートを取り付けて、持ち運び用のハンドルを取り付け、さらに、収録機やファインダーなどを取り付けられるようにした。

映像収録機としてはAtomos IP Pty Ltd.製のSHOGUNというフィールドレコーダーを用いて、NC-H100からのHD-SDI信号をモニタリング&録画できるようにした。また、周囲の明るさに関わらず、フォーカス合わせがしやすいように、HD-SDI信号を入力できるファインダーを取り付けた。NC-H100からは、2本のHD-SDI信号を出力できるようになっており、それぞれで、カメラの設定情報を文字として表示、非表示に設定することが可能である。撮影のスタイルにもよるが、フィールドレコーダーによるモニタリングは、撮影者が近距離のモニタを凝視する必要があり、老眼が進んだカメラマンには難しいこともあるので、視度調整機能がついたファインダーが必須となる。この撮影システム(カメラ部分)の重さは、およそ8kgほどである。これを、堅牢な中型のビデオ三脚に取り付けて撮影を行う。最近のビデオカメラは軽量ものが多くなったので、それらと比べてしまうと、この一連のシステムは、ずっしりと重さを感じる。しかし、屋外フィールド、今回の場合は、歩きにくい砂浜を手で持って運べない重さでは、決してない。
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実際の撮影の様子と、撮影した映像について
日中のうちに現地の下見を行い、その中で、最も可能性を感じた「とある海岸」で待機をした。平日の夜にも関わらず、駐車場には、ホタルイカ目当ての地元の人や観光客の車が多く停車されていた。ホタルイカの身投げが始まったのは、夜半近くであった。身投げが起こることが多いのは、新月の頃の大潮。今回、そのタイミングで富山を訪れているのだが、月明かりがまったくない。暗い中を打ち寄せる波打ち際に目をこらしながら歩くと、波の中に、時々、青白い光がきらめくのが観察できた。懐中電灯で照らすと、確かに全長6センチほどのホタルイカである。人の眼では、懐中電灯がなければ、真っ暗な海岸に青いホタルイカの光しか認識することができない。やがて、出現するホタルイカの数が増え、次々と波打ち際に打ち上げられる様子を観察できるようになった。この状況を準備してきたNC-H100で撮影してみる。設定は、露出オートにして、絞り開放、暗所でのリミッターをゲイン36dB、蓄積はx2~x16あたりに制限しながら、適宜調整を行った。NC-H100の撮像素子は、2/3インチのCMOSカメラである。放送用のB4マウント仕様のズームレンズを使うことができる。フルサイズのカメラが全盛となったこの時代において、2/3インチのレンズの良いところは、20倍以上のズーム比の高いレンズを使えるところである。夜間の屋外フィールドにおいて、レンズ交換なしで、広角から望遠までをシームレスに行うことができるのは、カメラの運用上、非常に便利である。
NC-H100を用いた撮影システムで、眩いばかりに青く輝くホタルイカの発光を、臨場感のある動画で捉えることができた。それに加えて、NC-H100は、打ち寄せる波しぶきの白いハイライトの部分を捉えているだけでなく、遠方の町あかりによって、ぼんやりと照らし出された空が海面に写ることにより、陸と海の境目を浮かびあがらせることができている。つまり、暗部が真っ黒につぶれるのでなく、暗部に存在するわずかな明暗のちがいが正確に描写される。人の眼には、黒一色、真っ暗と認識されてしまう世界に、実はわずかな明暗差、コントラストが存在し、その諧調を精密に描写することにより、暗所の空間を立体的に認識することができるのだ。超高感度低ノイズカメラであるNC-H100で撮影することによって、「一般的な高感度に優れたカメラは、発光体などのハイライトの描写を際立たせるため、暗部を黒く塗りつぶした描写にすることによって、ノイズ感を軽減しているのではないか」と認識を持った。一方で、NC-H100は、基本的には照明などがない暗部の中に潜んでいるコントラストから、わずかな情報も漏らさずに得ようとする監視カメラである。この設計思想のちがいが、暗視撮影における暗部の圧倒的な描写力の違いを作り出しているように感じた。
高感度撮影において、暗部を持ち上げれば、当然、ノイズが目立つことになる。ゲインを上げれば上げるほど、ノイズ量が増えるのは当然であるが、それでも、搭載されている様々なノイズ軽減のための仕組みと、描画に関わる各種の設定の調整を組み合わせることによって、それほど気にならないレベルに設定を追い込んでいくことができるようになっている。なかでも、最大の効果を発揮してくれるのが、特殊な撮像素子の仕組みで実現している映像蓄積による画像補完である。一部の動画カメラで設定することが可能な、シャッター速度をフレームの時間以上に遅くする撮影手法よりも、動きがカクつくことが軽減され、自然な姿を撮影できる。蓄積数を増やしていくと、発光する被写体が動くことで、光の筋ができることになる。この残像が撮影上問題がなければ、ゲインを上げるよりも、低ノイズな映像で微弱光を捉えることができる。この映像蓄積機能は、前代のNC-R550から引き継がれたもので、NC-H100においても、非常に有効に働く印象であった。
今後への期待
今回、NC-H100を組み込んだ撮影システムによって、人の眼で認識できる世界よりもはるかに鮮明な映像を捉えることができた。ホタルイカの発光の仕組みについては、まだ多くの謎が残されており、こうした点を解明するのに、この超高感度撮影システムが有効に使えそうなことを実感した。今後は、ホタルイカに限らず、様々な発光生物について、さらにマクロレンズ撮影や顕微鏡撮影の手法と組み合わせて、運用していきたいと考えている。今後の撮影が非常に楽しみである。
お客様プロフィール
株式会社ドキュメンタリーチャンネル
所在地 | 〒350-2204 埼玉県鶴ヶ島市大字鶴ヶ丘851番地1 |
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設立 | 2006年 |
事業内容 | ドキュメンタリーチャンネルは専門性の高い記録映像を中心とした高品質のコンテンツを企画・製作・配信し、人々の知識や教養を高め、社会の発展に広く貢献する企業です 。 |
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(2025年7月30日)
- ※SHOGUN は、ATOMOS Pty Ltd.の登録商標です。
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