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大手チェーンのモバイルオーダー・セルフオーダー最新活用事例
“これからの飲食店DXの教科書”著者、DXサービスの代理店販売事業を展開するマーケターが語る「飲食店DX」について2024年01月09日 カテゴリ:コラム
執筆者:株式会社Core Driven 代表取締役 吉田 柾長氏
モバイルオーダーとセルフオーダーの市場動向
モバイルオーダーとセルフオーダーは、テクノロジーの進化と消費者の行動様式の変化に伴い、飲食市場全体で浸透が進んでいます。特にコロナ禍の影響を受けて、両システムの市場規模は急速に拡大しました。飲食店にとっては顧客体験の向上、オペレーションの効率化に大きく貢献するソリューションとして注目されており、今後も拡大が進む見込みです。

モバイルオーダーは、スマートフォンやタブレットを利用して注文を行うサービスで、特に都市部や若年層の間で人気を集めています。2022年にぐるなびが発表した「モバイルオーダーの利用実態調査」によれば、約4割がモバイルオーダーの利用経験があり、利用経験者のうち約9割が満足と回答。今後の利用意向についても経験者で約9割、未経験者でも約6割と、高い満足度と関心の高さがうかがえます。

一方セルフオーダーは、店内に設置された端末や卓上のタブレットなどで顧客自身が注文を行うシステムで、効率性とスピードを重視する顧客に支持されています。タッチスクリーンによるシンプルかつ直感的な操作が可能で、スクリーンの操作性も年々向上しており、操作が苦手な利用者層への配慮も進んでいます。
また導入店舗への恩恵は注文処理業務の軽減に留まらず、新たな顧客層の開拓やリピーターの獲得につながっています。モバイルオーダーとセルフオーダーは単なる注文ツールを超え、マーケティング戦略の一環としての重要性を増しているのです。
飲食店利用の常識を変えたモバイルオーダーの活用事例
業界に大きな変革をもたらしている店舗やサービスについて、特に注目すべき事例を紹介します。
一つ目は、某大手ハンバーガーチェーンや某大手コーヒーチェーンで導入されているモバイルオーダーを利用した事前注文・決済システムです。これまではレジで直接注文し、商品が提供されるまで待つのが一般的でした。この方法では店外まで長い列ができることもあり、顧客はかなりの待ち時間を覚悟していました。しかし専用アプリの導入により、顧客はウェブ上で注文、決済までを完了し、店舗に到着する頃には商品が用意されているという画期的なシステムが実現。待ち時間解消だけでなく、店舗側にとっても混雑時の顧客の流出を防ぎ、売り上げ増加に大いに貢献しています。
こうしたモバイルオーダーシステムは、自社開発されることもあれば、月額制で利用可能なサービスとしても提供されています。また専用アプリのダウンロードを必要とせず、QRコードから注文可能といった導入ハードルが低いサービスの登場や、注文時にLINEアカウント情報と連携し再来店の促進や顧客分析に寄与するシステムなど、幅広い活用が見られます。
在庫管理やコンテンツ施策まで?セルフオーダーの活用事例
セルフオーダーシステムも飲食店の運営に大きな変化をもたらしています。2023年、某大手ベーカリーカフェチェーンでは在庫管理機能を活用したセルフオーダーシステムを導入。事前設定した在庫数になるとキッチンに通知が飛ぶ仕組みで、最適なタイミングでの追加製造を可能にし、フードロス削減にもつなげています。また某和食・定食チェーンでは各テーブルに注文用タブレットが設置されており、注文後には「2週間某和食・定食チェーンの食事だけで生活したら体はどう変わるのか?」という動画コンテンツが自動的に再生されます。顧客は商品を待つ間に動画コンテンツを見ることで、健康や食生活に対する意識が高まり、来店動機の強化も期待されます。タブレットという媒体の特性を、販促や店舗のファン獲得のために応用したユニークな事例といえるでしょう。
多くの飲食店で導入が進むモバイルオーダーやセルフオーダーは、今後の技術革新にも期待が持てます。注文動作や傾向に合わせて、よりパーソナライズ化された商品を提案可能になるAIの貢献、予約管理など別領域のシステムと連携した顧客分析力の向上、端末の操作性能や処理スピードの改善…。飲食店にとってさらに大きな効果をもたらす可能性を秘めており、導入済みの店舗も最新のシステムや事例には常にアンテナを張る必要があります。
顧客や従業員の満足度を左右する、意外な落とし穴とは
便利なシステムではありますが、導入においてはコスト増やシステムエラーのリスク以外にも留意すべき点があります。
まず、接客機会の減少に伴う顧客満足度の低下です。従来発生していた顧客からの質問には、その顧客が求めるものへのヒントが隠れています。例えば、量を気にする顧客にはメニューのサイズ展開を案内したり、温かいメニューを求める顧客には暖かい席への移動や空調の調整を提案したりするなど、得た情報に対し細やかな配慮が求められます。しかし、こうした「配慮がある」と感じさせるチャンスが、モバイルオーダーやセルフオーダーでは減ってしまいます。
次に、メニューの一覧性が低下することも問題です。紙のメニューでは複数ページでも簡単に全体を見渡せますが、モバイルオーダーやセルフオーダーでは「クリック」や「スクロール」といった操作が必要になり、全体を把握しづらくなります。これにより、追加注文の減少に伴う客単価の低下や、最適な商品を見つけられずに顧客満足度が低下するリスクがあります。
さらに、スタッフのホールに対する意識の低下も重要な問題です。従来は注文を取るために客席に常に注意を払う必要がありましたが、システムが導入されるとその必要性が減ります。これは人件費削減の面ではメリットですが、一方でスタッフが油断しやすくなるというデメリットもあります。スタッフへの教育を徹底できないケースも多く、導入後に「スタッフを呼んだのに気づかない」といった顧客の不満も発生しています。
しかし、これらは正しくシステム導入することで対処可能ですし、メリットにもつなげられます。例えば接客機会の減少に対しては、初回来店時に商品やオーダー方法の丁寧な説明を織り交ぜるなど、接客機会を意図的につくることで対策可能です。メニューの一覧性についても、レイアウトを工夫すれば紙メニューより見やすく注文傾向を操作するような対処ができますし、スタッフのホールに対する意識については「30秒に一回はホールを見回す」などのマニュアル作成も効果的かもしれません。本来のモバイルオーダー、セルフオーダーのメリットを引き出すために、伴うリスクへの正しい理解が重要になるのです。
DX成功のための導入プロセスと、選定時のポイント
リスクやデメリットを最小限に抑えるためには、現状を的確に理解し導入後の変化を予測することが重要です。
まず導入前の対策として、オペレーションの変更が顧客満足度や従業員のサービスレベルにどのような影響を及ぼすかを検討する必要があります。モバイルオーダー・セルフオーダーの導入は業務効率化と人件費削減というメリットがありますが、それによってスタッフのパフォーマンスやモチベーションの低下、顧客満足度の低下が起こる可能性も忘れてはなりません。また収支の定量的な判断においても、人件費やシステム利用料だけでなく、顧客満足度の変化による売上の影響をシミュレーションする必要があります。これらの点を予測し店舗の実態を正確に把握することで、導入するか否か、また導入する場合の対策を考えることが効果的です。
そしてシステムの導入を検討する際には、顧客と運営の両面から多角的に考える必要があります。まず顧客面では、お客さまの利用しやすさを最優先に考えるべきです。例えば、自身のスマートフォンで注文できるのか、テーブルにタブレットを設置するべきか、あるいは入り口に注文端末を設置する方が良いのか。顧客の年齢層や技術への慣れ、注文にかかる時間や注文傾向などを考慮する必要があります。
運営面では、既存のPOSシステムとの互換性があるかどうかはもちろんのこと、管理画面の操作性、店舗独自でのカスタマイズの可否、サポート体制の充実度、そしてサービスに対する口コミや評判なども検討すべき要素です。システム導入後の運営のスムーズさや効率性、そして長期的な顧客と従業員の満足度に大きく影響します。
モバイルオーダーとセルフオーダーは飲食業界に変革をもたらし、顧客体験と効率性を大きく向上させています。これらのシステムを導入し正しく活用するためには、顧客と従業員の満足度の変化を十分に考慮し、メリットとデメリットを総合的に評価する多面的なアプローチが成功の鍵となるのです。
- ※QRコードは株式会社デンソーウェーブの登録商標です。
今回は株式会社Core Driven 代表取締役 吉田氏にモバイルオーダー・セルフオーダーシステムの活用に関するテーマで執筆いただきました。
本コラム内で取り上げているモバイルオーダーシステムやセルフオーダーシステムはNECプラットフォームズにて提供しております。
- ※コラム中の活用事例に記載した一部の機能には対応していないことがあります
ぜひ、お気軽にお問い合せください。
株式会社Core Driven
代表取締役/CEO 吉田 柾長氏
株式会社ぐるなびの営業部にてセールス・カスタマーサクセス、企画部ではマーケティングとプロジェクトマネジメントを経験。
その後、株式会社アスラボにて、自社ITサービスを導入した横丁を全国にプロデュースする事業の経営企画とマーケティングを兼任。
2020年4月に飲食業界専門マーケターとして独立、同年8月には株式会社スペリアルを取締役COOとして共同創業し、飲食店を経営。
2021年9月に株式会社Core Drivenを代表取締役として創業、DXサービスの代理店販売事業、飲食店のプロデュース・運営代行事業を展開。飲食店とIT企業、どちらの立場にも寄り添ったスタンスで飲食業界のアップデートに取り組む。

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