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顧客との「共感」がカギとなる多店舗展開のためのブランディング
プロデュース・アドバイザーとして約80社を手がけた飲食コンサルタントが語る「飲食店DX」について2023年09月12日 カテゴリ:コラム
執筆者:株式会社タベル 代表取締役 鈴木 正治氏
多店舗展開による経営視点のメリット
近年、新型コロナウイルスの影響により飲食業界は急速に変化し、競争が激化しています。それに伴い、店舗経営の考え方も大きな変革を余儀なくされたのではないでしょうか。そんな中でも、多店舗展開は最も有力な戦略の一つとして注目されています。
多店舗展開のメリットは多岐にわたります。まずは収益の拡大です。複数の店舗や業態を展開することで、単一の店舗だけでは得られない規模の経済効果を享受することができます。またブランド認知度が高まり集客力がアップする可能性や、単一の店舗に比べリスク分散が図れるため、経営リスクが軽減されるというメリットが挙げられます。
ただし、もちろんメリットだけではありません。
経営の複雑化やブランド統一の難しさ、人材の確保やトレーニングに加え新型コロナウイルスの影響によるビジネスモデルの見直しや柔軟性、デジタル化の促進、衛生面などの安全対策、顧客の地域性や趣向の変化に合わせた提案やサービス提供など…課題や考慮すべき点はさまざまです。
多店舗展開は大きなチャンスを得られる一方、成功するためには慎重な戦略の策定と実行が欠かせません。メリットとデメリットをバランスよく考慮した計画を持って、展開を進めていくことが大切です。
多店舗展開のための基礎となるブランディング
多店舗展開の基礎となる大きなポイントがブランディングでしょう。ブランディングと一言で括られていますが、長期的な競争優位性を確保するために非常に重要な要素がいくつもあります。
まず店舗ブランドのアイデンティティを明確に定義する必要があります。各店舗の居心地の良さや接客が独自の文化を持っているのであれば、なぜそういった店舗を展開しているのか、会社の理念やミッションを伝えやすい言葉にする。オリジナル商品や季節感、イベントを取り入れるようなコンテンツの豊かな店舗では、価値観やストーリーを顧客が認識しやすいデザインやロゴ、素材感に統一する。
このように言語化、視覚化されたアイデンティティを、まずは経営陣や店舗管理者など、より経営に近いスタッフが共有、そして共感していくことがブランディングで最も重要となります。それを軸に前述の「外食企業本部も現場も知っておきたい、Z世代社員の教育」でも取り上げた、従業員に対する明確な目標設定やエンゲージメントの向上に取り組むことで、より組織の末端まで理念やミッションが浸透していくのです。
私が経験してきた店舗展開では市場調査や既存店の顧客データ収集を行い、スタッフといくつかのアバターを想像して現実的な店舗をイメージしながら、ブランドを一緒に構築しました。その際に既存店の顧客分析に加え、出店予定の地域情報をリサーチし、新店舗の顧客層がどのようなサービスを求めているかをスタッフ同士で自発的に意見を交換、さらには新商品の開発や定番メニューの見直しも行っています。その結果、オープン時に良いスタートをきれただけではなく、スタッフエンゲージメントが高まることでスタッフスキルの向上や、新たなサービスの開発にもつながりました。こうしてブランドの確立、他社との差別化にもなり店舗全体のイメージが定着していったのです。
このように多店舗展開の基礎となるブランディングを考えると、さまざまな課題に対して改めて見直しをする機会ともなり、課題解決のきっかけやスタッフトレーニングの強化、顧客エンゲージメントの向上にもつながります。
顧客との「共感」が多店舗展開のステップアップ
しかしブランドの一貫性を保つことは非常に難しいものです。保守的になりすぎず、積極的に新しい技術や活動を取り入れながら、イメージやサービス、品質を維持することが最も重要な点でしょう。
多店舗展開をしようとするほど、各店舗の情報管理・運用は煩雑になりがちです。デジタル化によって店舗間での顧客情報管理や共有、オンライン予約などを活用した商品管理や在庫管理、スタッフのシフト管理なども大切な要素となりますし、また最新テクノロジーの活用による調理、接客の自動化による業務の効率化、生産性の向上などが不可欠となります。そして技術の導入だけでなく、定期的な業態の再確認が欠かせません。ソーシャルメディアや顧客データに加え、顧客のフィードバックを最大限活用して、今のブランドがトレンド的か持続的な立ち位置なのかを把握する必要があります。その後にあらゆる視点から自社ブランドを掘り起こし、戦略的にブラッシュアップしていくことが重要となります。
さらに近年では多店舗展開を進める中で、「持続可能な経営」が強調されるようになりました。業界大手の飲食店では持続可能な農業や漁業の支援を取り入れたり、食品ロスの軽減や店舗全体で省エネ対策をしたりと、環境への配慮を徹底しています。これによりブランドの信頼性を高めつつ、社会的影響力を拡大しています。
私の知っている中小企業では地域的問題に取り組む一環として、各店舗で「こども食堂」を始めました。こども食堂は、無料もしくは低額で栄養のある食事を提供する民間発の取り組みのことで、地域住民のコミュニケーションの場としても注目されています。その企業はこうした活動により、その地域に特化したコミュニティーを構築、今ではクリーン活動やマルシェの運営といった他業態にも取り組むなど、地域に向けたブランディングを成功させています。
このように一貫したブランドの維持には、時代に合わせた店舗デザインやコンテンツの強化などのハード面だけではなく、地域とのつながりや社会的問題への取り組みなども大切です。顧客はこれらの活動に共感、また参加することで、そのブランドの立ち位置や持続可能性を感じることができるでしょう。SNSなどで簡単に情報を手に入れられる昨今、顧客は企業やブランドに対していかに「共感できるか」という距離感も、大切になっているのだと感じます。
経営者の学びと成長こそが企業とブランドを育てる
過去に私が経験した大きなダメージをもたらす社会情勢にリーマンショックや東日本大震災がありましたが、今回の新型コロナウイルス蔓延が世界的にも最大級のダメージだったのではないでしょうか。私もたくさんの方から相談を受けましたし、自身の会社も大きな影響を受けました。しかしこのような情勢だからこそ、新たな業態や多店舗展開へ取り組む機会があった企業、既存店の課題や対策に向かい合うことができた企業も多くあったと実感しております。
もちろん全ての企業が乗り越え、成功してはいません。
目まぐるしく変わる時代の中で、品質の維持が困難になったり、適切な人材の不足、顧客ニーズの複雑化、地域社会や文化の違いなど、新たな壁は常に迫ります。断腸の思いでの決断や経営判断も私自身たくさんの経験をし、そうした店舗も見てきました。
その中で今回のような新型コロナウイルスの影響に屈することなく、持続していくことができた企業の特徴の一つに、企業努力とテクノロジーの導入、その相乗効果による成長が挙げられると感じています。ロックダウンに近い状態からどのような形で店舗を持続していくのかを苦慮しながら、策を考案し行動していく中、情勢に伴いテクノロジーの発展は早まりました。積極的、かつ有効的にテクノロジーを導入できた企業は、その企業努力をテクノロジーが後押しする形となり、短期間で企業とDX面が共に成長、しいては多店舗展開や持続的な経営につながったのではないでしょうか。
経営者としてビジネスの成功は最も重要なことです。それに伴うさまざまなタスクをあらゆるテクノロジーを駆使して効率化を図り、多様化したニーズと価値に応えなければなりません。そのために、学びの時間をご自身でどれだけ作れるかが要となっています。成功にこだわるだけではなく、会社やスタッフの成長の機会、新たな挑戦への喜びにどれほど情熱を持って向き合えるか。そのために自身がどれだけチャレンジし成長できるかが、改めて大切になった時代なのだと思います。
今回は株式会社タベル 鈴木氏に飲食店の多店舗展開に関するテーマで執筆いただきました。
多店舗展開における、各店舗の効率的な運用をサポートする飲食店向けソリューションはNECプラットフォームズにて提供しております。
接客の一部を自動化する
配膳を自動化する
ぜひ、お気軽にお問い合せください。
株式会社タベル
代表取締役 鈴木 正治氏
調理人として4年、マネジメントで21年の25年飲食業界で従事。和食料亭(東京) で修行後にフレンチに転職。その後、数社にて店舗マネジメント、新店舗立ち上げなどの業務に従事。現場優先の視点でチームビルディング、店舗オペレーレーションの見直し、業態開発、プランニングによりケータリング事業や、ゼロから全国へ一斉に仕掛けたビアガーデンの基礎構築チームリーダーを担当。その後、フレンチレストランを開業。レストランの運営の傍ら大手企業のプロデュース、アドバイザーを手がける。
自社運営レストランを事業譲渡後、飲食店の経営戦略、運営、人事、企画に従事(最大従業員約400名をマネジメント) 海外事業部を立ち上げ、マネジメント後に帰国。現在フリーランスで大手企業から小規模店までを一貫してプロデュース、アドバイザーを請け負う。
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