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飲食店で進むオートメーション化とその先の未来
「月刊飲食店経営」の編集長が語る! 外食業界コラム2019年04月12日 カテゴリ:コラム
執筆者:月刊飲食店経営 毛利 英昭
外食業界より先行してコンビニやスーパーマーケットでは、セルフ会計など店舗のオートメーション化が進んでいる。人手不足でやむを得ずセルフレジを導入していると見られているが、それだけが狙いではない。確かに慢性的な人手不足に悩まされているものの、Amazonなどネット販売やドラッグストア、そして飲食店との競争が激化しているコンビニやスーパーにとって、人手不足対策と合わせて重要なのは、リアル店舗のアドバンテージを持つための“新しい買い物体験”の提供にある。
ただ欲しい商品が安く手に入るだけでは、店に行く手間のないネット通販の方が便利だ。おまけに洗剤など補充型商品であれば、いつも決まったものを購入することが多く、店で比較購買する必要も無い。 お客が、わざわざ店に足を運んでくれるには、“買い物の楽しさ”を訴求する必要がある。実際、買い物カートにタブレットを備え、バーコードリーダで商品をセルフスキャンして買い物するカートPOSは、高齢女性にも大変好評である。「買い物しながら合計金額が表示されて安心」、「売場で特売商品やお得なクーポンを使って買い物できる」と、今までに無い買い物スタイルに「買い物が楽しい」という声を多く耳にする。
飲食店も同じだ。確かに人手不足は深刻であり、人手を介さずにできる事を自動化して、人手不足を少しでも補いたいという店が多いのは紛れもない事実だ。 しかし、無人化を目指すかと言えばそうではないだろう。最先端のITを導入するコンビニですら、チェーン本部は無人化という言葉は決して使わない。あくまで省力化、省人化であり、ITやロボットは人が接客サービスできる状態にするための補助する存在と位置づけている。
ましてや飲食店はサービス業。中国では無人レストランも登場したが、日本でそれを求める飲食店は、極めて少ないはずだ。 やはり、ITを活用することで“新しい外食体験”を提供し、お客により楽しんでもらいリピート化を促進することを考えなくてはならない。 それには、スタッフがゆとりを持ち、お客との接点の時間と質を高めることが大切だ。
ITとロボットが経営課題を解決し新たな外食体験を提供する
さて、前置きが長くなったが、飲食店ではどのようなオートメーション化が進むのであろう。お客の立場で、入店から会計までの流れを追いながら、未来店舗の姿を考えてみたい。 まず、スマホやWebからの予約と事前決済が進むことだろう。空席状況をいちいち電話で問い合わせること無く、スムーズに予約できる便利さは、すでにあたり前になっている。加えて、昨今問題となっているノーショー※に対する対策として、事前決済やデポジットを必要とする予約システムが増えてくるはずだ。 事前決済やデポジットが当たり前になれば、居酒屋の宴会でのドタキャン被害など大幅に削減できる。
- ※ノーショー:無断キャンセルのこと
また、外国人観光客が急増する中、コミュニケーションロボットによる接客も現実となろう。 昨今の音声認識技術やAIによる自然言語処理の進歩はめざましく、多言語対応はバイリンガルな人を採用するよりも、ロボットを導入する店舗が増えてくるはずだ。
ロボット活用で“おもてなし”に磨きをかける
ロボットの活用分野はこれだけにとどまらない。オートフライヤーなど現在使っている厨房機器も一種のロボットであり、今後は、配膳やバッシング作業をロボットが人の作業を代行する時代も間近だ。
実際、配膳ロボットを試験導入している店で話を聞くと、お客から驚きと共に笑顔があふれ、会話にも花が咲き口コミも増えていると聞く。「ロボット=手抜き」といった声は一切聞かれないという。
また、高齢化が進む中で、高齢者の雇用を進める必要が出てくるが、配膳ロボットなどで作業負担は軽減される。いかに元気な中高年が増えたとは言え、作業動線が長く、時には重い物を持ち歩いたり、腰を曲げたりする作業は負担が大きい。 今後は、ロボットが人の仕事をサポートするようになることで、人でなくてはできない“おもてなし”を充実させることができるようになる。
一方でロボットを活用することは、新しい外食体験の提供につながる。人でなくてはできない“おもてなし”に加え、ロボットを使った作業補助や新しい外食体験は、選ばれる店の条件になるのではなかろうか。 サービスには、“機能”と“情緒”と言う二つの要素があるが、ロボットの活用は機能的サービスを補完し、これからの飲食店の重要な役割を果たすようになるはずだ。
期待が大きいAI
テーブルサービス面では、人手不足でオーダー受けの遅れが増えているといった声を多く耳にする。繰り返しオーダーの多い居酒屋や焼肉店ではなおさらで、セルフオーダー端末の導入が一気に進んでいるが、今後は、スマートスピーカーのように音声オーダーも出てくるだろう。
スマートスピーカーを使っている方なら、タッチしないで済む便利さはよくわかるはずだ。例えば、お客にとっては食事中で手がふさがっていたり、汚れていたりしてもオーダーが可能であるし、厨房のスタッフも音声でオーダー確認や配膳指示などできれば、衛生面でのメリットも大きい。
また将来的には、AIがリピート客の好みからサジェスティブしたり、セルフオーダー端末でお客の好みを覚えてリコメンドするといったことも可能になるだろう。
キャッシュレス化とセルフ化がもたらすメリット
会計方法も大きく変わりつつある。政府は2025年にキャッシュレス化率40%を目標にしており、飲食店でのキャッシュレス化推進にも力を入れている。 だが、飲食店のキャッシュレス化は、大手で実証実験的な導入が進んでいるものの、中小店での導入ははかばかしくない。理由は、新たな処理端末の導入の必要性と決済手数料にある。
実際、接待需要の多い業種業態では、クレジット利用率が8割を超える店もあるのだが、5%を超える手数料を支払っている店もあり、その負担は大きい。 そこで、スマホを使ったモバイル決済などによって、低い手数料率で利用できるサービスも出てきている。政府もキャッシュレス化推進のために、スマホ決済のプラットフォーム作りなど、民間の競争力領域にまで踏み込んだ後押しをしている。キャッシュレス化が進めば、お客にとって煩わしい小銭が不要になる上、電子決済事業者などによるポイントやクーポンの発行など、今以上に魅力的なサービスが増えるだろう。
また、キャッシュレス化と共に電子レシートが普及することによって、店とお客との新たな接点も生まれる。オーダー履歴が蓄積されることで、好みを判断してリコメンデーションを行い、リピートに効果的なクーポンをアプリに送る販促や、チェーンの他店との相互送客にも効果を発揮する。摂取カロリーや栄養摂取の分析など活用の幅も広がるだろう。もちろん、無駄なレシートの紙も削減される。
店にとっては、キャッシュレス化で現金管理が楽になる。売上現金のカウント、現金過不足チェック、釣銭準備、銀行送金などの業務が大幅に合理化される。 さらに、キャッシュレス化が進めば、セルフ会計もしやすくなる。現金のセルフ化には現金の入出金機が必要だが、キャッシュレスなら投資も少なく小さなスペースにセルフ会計機を設置することもできる。
セルフ会計になればお客のレジ待ち時間が減り、ランチタイムなどお客が集中する時間帯の効率が上がる。客席回転率のアップ、売上機会ロスの削減にもつながるはずだ。 セルフ会計の仕組みにもよるが、接客対応中の会計呼び出しや、伝票の入力計算と支払処理、釣銭の受け渡し、領収書の発行など、対面で行っていた作業は不要になる。 また、セルフ化は、レジ登録ミス、釣銭勘定ミスそして売上過不足といった、スタッフの心理的な負担を軽減し、パート、アルバイトの応募率にも影響するはずだ。
このように、ストアオートメーション化は、店の課題解決に大きな役割を担うとともに、新たな外食体験を提供するという大きな役割を果たすことになろう。
月刊飲食店経営 毛利 英昭氏
コンサルティング会社に16年間在籍後、2007年4月に独立し(株)アール・アイ・シー設立。外食・小売業界を中心に業務改善やシステム構築分野のコンサルティングと社員教育などを中心に活動。
2015年に商業界から、「月刊飲食店経営」「月刊コンビニ」の出版事業を引き継ぎ、現在は編集長を兼務している。
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