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Z世代経営者、今の時代に伸びている経営者にみられる共通点とは
ぐるなび創業メンバー、現マーケティング会社代表が語る「飲食店DX」2025年03月06日 カテゴリ:コラム
執筆者:株式会社ナイアガラ 代表取締役 大滝徹也氏
「飲食店の生存率は開業後10年後で10%」という言葉、みなさんも聞いたことはあるかと思います。参入障壁が低いがために、事業計画も立てないままに独立開業している人も、正直多い業界です。「好きだから」という気持ちはとっても大切。「やってみたい!」と挑戦する気持ちはとても良いことだと思います。しかし、簡単に始められるからこそ、失敗する人が多いのも現状です。
そんな日本の外食産業でも「老舗」と呼ばれる飲食店は全国に数多く存在します。その町を代表する名店や、寿司といえば!で名前が上がる業種を代表する店舗など、みなさんも頭に浮かぶお店が1つや2つあるかと思います。反対に、すごいスピードで規模を大きくしているスタートアップ企業も目立っています。創業3年以内に店舗展開をしていき、3億円、5億円以上の売上を上げている企業も少なくありません。
コロナ禍、原価高騰、電気・ガソリンなど燃料費も高騰、人件費上昇などの厳しい逆風の中で伸びている飲食店経営者は何が違うのか?彼らはなぜ、伸び続けているのか?厳しい令和の時代に成功している理由はマインド的な要素ももちろんありますが、老舗企業、スタートアップ企業に限らず、共通点もあるかと思います。いくつかご紹介させていただきます。

省人化のためのアウトソーシングやDX活用
1つ目に挙げられるのは「省人化」です。いかに、人手をかけずに飲食店を運営していくか。そのためには無駄を削ぎ落とすことも大切ですが、削るというネガティブな考えではなく、人がやるべきことに注力する、効率化を常に考えることが重要です。
仕込み業務や清掃業務のアウトソーシング
これらはいい例です。清掃専門業者に委託することで、スタッフの出勤時間を短縮でき、人件費抑制にも寄与、また仕込み業務を専門の業者に委託することで人件費抑制効果だけでなく、安定した品質が担保されます。
人事総務業務のDX化、外注化
ある程度の規模になると総務経理業務は給与の計算や振込だけでも仕事量が増え、専門のスタッフを雇用する必要がありました。しかし、最近では便利なアプリケーションも安価で導入できるようになり、内勤スタッフの人件費削減も可能にしています。また、システム連携が可能なサービスも多く、タイムカードアプリとレジアプリを連携することで人時売上、原価率、PL管理まで容易に行えるようになっています。結果的にリアルタイムでの数字把握から現場の改善に落とし込め、業績アップにもつながっています。まさにタイパの時代に不可欠な手法です。
営業面でのDX活用、パーソナライズサービスの重要性
飲食店のDX化は営業面でももちろん発揮しています。例えば、予約の受付を電話からWEBにすることや、モバイルオーダーによる注文はあたりまえになりつつありますが、それだけではDXの活用とはいえません。もちろん省人化という効果はありますが、顧客データを収集した「パーソナライズサービス」を行えることにその本質はあります。来店履歴や嗜好データを基に、一人ひとりのお客さまに合わせたサービスや接客を行うことができるのです。店長や優秀な社員、毎日出勤しているスタッフでなくても、レベルの高い接客を行うことが可能になります。本来人間がやるべきことに注力するために、DXを活用している飲食店が増えてきています。
労働環境の改善と整備
労働条件、そして労働環境の整備も伸びている企業は大切にしています。大手飲食企業では平均年収が700万円を超える企業も少なくなく、完全に低賃金の仕事ではなくなってきています。とはいえ個人経営の飲食店では厳しい現状ですが、若手スタートアップ企業では大卒採用もリファラル採用も増えてきています。その理由として、労働環境や給与条件が飲食業以外の一般企業にも劣らないことだけでなく、週休3日制度の導入、副業の自由、ステップアップ制度の明確化なども挙げられるかと思います。
例えば寿司店では通常、修行の期間が長く、親方の背中を見て覚える、一人前になるには何年もかかる、などといったイメージも強くありましたが、某老舗寿司企業では社内に独自の教育カリキュラムを作り、通常2~3年かかる教育内容を100日間で習得できる仕組みを作りました。採用面だけでなく、次世代のリーダー育成にもつながっています。老舗寿司企業だからこそできる100年積み重ねてきたノウハウや知見が、若手飲食人にとって価値のあるものとなり、未来の日本の外食産業への大事な財産にもなっている取り組みです。
多業種展開、ターゲットの拡大、他業種への進出
某老舗寿司企業では、複数のコンセプトの寿司店を展開していることで、テレビなどのメディアでも紹介され話題になりました。町寿司から創業して100年、商業施設への出店の他、女性ターゲットのブランド、食べ放題、インバウンドを狙った寿司握り体験など、地域性や時代に合わせてさまざまな形に柔軟に対応し、成長し続けています。また、メインである関東地方だけでなく、東海地方への出店は東日本大震災での教訓を生かしたリスクヘッジでもありました。しかし、結果的には東海地方での顧客も心をつかみ、第二の拠点としての事業の柱にもなってきています。業種やエリアを分散し、多岐にわたって挑戦し続けることも伸びている企業の共通点です。
若手経営者の中では、飲食以外の業種を扱っている企業も増えています。スポーツトレーナーや教育事業が以前は多かったのですが、最近ではマーケティングやデザインなど、自社での成功体験を生かして事業化する会社も目にするようになりました。時代に合わせて柔軟に、自然な形で本業以外の事業展開も現実的になっています。
「出店」以外にもニーズが増えている海外進出
リスクもあり大手企業でもハードルの高かった海外進出。特にアジアヘの出店は大手チェーンも、そしてスタートアップに近い若手企業もコロナ禍以降、果敢にチャレンジしています。日本の将来的に縮小するマーケットを見据えて、また、海外からの技能実習生の獲得という点で進めている企業もあるようです。世界での日本食の評価は依然として高く、現地企業からのプロデュースのニーズも増えており、出店以外でのアウトバウンド事業も増加しています。また日本では低単価な業態でも、海外では高級店として受け入れられている傾向もあります。そして事業の分散化という意味でも日本市場が厳しい中、海外店舗での売上が支えている大手企業があるのも後押しになっています。
外食企業の国際化をスローガンにした「一般社団法人日本フードビジネス国際化協会(JIFA)」も2016年に設立され、さまざまなセミナーや情報交換、そして海外進出のサポートも行っており、飲食店が海外進出しやすい環境になっていることで、今後もさまざまな形での海外進出の加速が予想されます。
伸びている飲食企業に求められるものとは
飲食企業にも「CSV経営」(Creating Shared Value)という言葉がかなり浸透してきました。社会課題も解決しつつ社会的価値を創造し、結果として企業が経済利益を獲得することはあたりまえに求められています。自社の利益のためだけでなく、業界、地域、そして社会に対して価値を共有できているのか。その視点を持っていなくては飲食業界のみならず、これからの社会での成長はないはずです。
省人化は必ず取り組まなければいけない課題ですが、人を省くという意味ではありません。労働人口の減少が確実なこれからの社会において、人手不足を言い訳にせず、企業が成長し続けるために解決しなくてはならない課題の一つです。またAlのレベルがこれからも上がっていく中で、人がやるべきことを見極め、人材の質を高めることが飲食企業にこそ大切です。その仕組みづくりを組織の中でいかに構築できるか。そして働きがいのある職場はもちろんのこと、働き方もしっかりと教育し、働くスタッフの人生を豊かにするために、経営者は何をするべきか。
伸びている経営者たちに共通して言えることは「視座が高い」ということだと感じます。CSV経営、SDGsが求められる情勢の中で、自分ごとで高い視座で取り組む姿勢こそが、次世代へつながる企業の姿だと思います。
株式会社ナイアガラ
代表取締役 大滝 徹也氏
ぐるなび創業期のメンバーの一人。関東エリアマネージャー、シニアマネージャーを歴任。
住商アーバン開発株式会社、株式会社トラジを経て、2007年に株式会社ナイアガラ設立。
大手メーカーや行政へのブランディング戦略提案、広告企画制作、SNSマーケティングの実績も多数。飲食店、商業施設のサポート業務としては消費者視点でのマーケティング戦略で、コンセプトメイク、PR、デザイン、問題点改善提案、店舗開発などを行う。
全国でのSNSセミナー講師の他、企業へのSNS導入実績は100店舗以上。
また2019年より沖縄県名護市で飲食店「SUNNY TACOS」を創業。自身も現場に立ち、自店のブラッシュアップはもちろんのこと、クライアントへのマーケティング提案にも活用している。

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