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POS・決済システムの活用による業務効率化と戦略立案
“これからの飲食店DXの教科書”著者、DXサービスの代理店販売事業を展開するマーケターが語る「飲食店DX」について2023年12月19日 カテゴリ:コラム
執筆者:株式会社Core Driven 代表取締役 吉田 柾長氏
成長と多様化の一途をたどる、POS・決済システムの市場動向
飲食業界におけるPOSシステムと決済システムは市場の成長と多様化を見せており、この競争環境はPOSシステムの品質向上に寄与しています。また近年、タブレットなどのモバイル端末にアプリをインストールするだけで利用できる、クラウド型のPOSレジが普及しています。サブスクリプション利用できるものであれば常に最新版にアップデートされるため、環境の変化にも迅速かつ柔軟に対応可能です。これらのシステムは飲食店の規模にかかわらず、運営効率を高める上で不可欠な役割を果たしています。
またキャッシュレス決済市場では、クレジットカードやQRコード・バーコード決済、タッチ決済の普及が見られます。経済産業省が算出した2022年の最新データによると、キャッシュレス決済比率は民間消費支出の36%を占めており「2025年までに4割程度」という省庁の目標に向かい、その比率は今後も上昇が見込まれます。
POS・決済共に業界内ではDXが浸透しており、技術の進化と市場の多様化により、さらなる貢献が期待されます。
コスト構造の意識に変化?POS・決済システムがもたらすメリット
こうしたシステムが飲食業界内に浸透してきた背景として、飲食店にとっての業務効率化と顧客獲得のメリットが挙げられます。
POSシステムは、会計処理の時間短縮と正確さを高め、得られるデータは店舗全体の改善につながります。売上高分析、人気メニューの把握、顧客来店パターンの理解により、メニュー改善や在庫管理、効果的なプロモーション戦略の策定など、POS活用により大きな利益改善が見込まれます。
決済システムは現金管理のリスクを軽減し、会計プロセスを迅速かつスムーズにすることで顧客の待ち時間を削減、サービスの全体効率を向上させます。顧客にとっても現代社会において必要不可欠な存在となっており、利便性が高いだけでなく、ポイント蓄積など金銭的なメリットもあります。顧客によって日常的に使用している決済方法に差異があるため、多様な決済サービスへの対応が効果的です。
多店舗展開をしている企業はもちろん、個人店でもPOS・決済に関する意識が高まっています。食材高騰や人手不足などの社会問題も相まって、分析に基づく効率化を図らなければ経営存続が難しくなっている状況です。また、以前は多かった「決済手数料がもったいないのでキャッシュレスはやらない」という方針の店舗が、ここ5年で「キャッシュレス対応しないと集客に支障がある」という考えに変わってきています。実際、コスト構造の意識にも変化が生じており、店舗立ち上げ期間の段階でPOSなど定額サービスの利用料や、変動費としてキャッシュレス決済手数料を原価に組み込んだ収支計画、収支シミュレーションが主流になっています。
業界大手の事例にみる、POSデータを起点にした戦略立案
飲食業界におけるPOSシステムと決済システムの戦略的活用は、実際に経営の効率化と顧客満足度の向上に重要な役割を果たしています。
代表的な例として、某大手外食企業の取り組みをご紹介します。同社は2014年から飲食店業界におけるPOSシステム、決済システム、およびデータ活用の革新的な取り組みを開始しました。全国約3000店舗、数十億にも及ぶ蓄積されたPOSデータを集約し、リアルタイムに分析を行う基盤を構築。メニューの併売率分析、精度の高いコスト把握、クーポンなど販促戦略結果の可視化、顧客の滞在時間など利用実態の分析に活用され、これまで数時間から数日かかっていた複雑な分析作業が、データ圧縮と並列処理により高速化されました。2014年上半期は前年同期比で広告宣伝費を10%以上削減しつつ、このビッグデータ分析により売上高は2.4%(約40億円)の成長を成し遂げています。
昨今の技術革新に伴い、さらなる変革を遂げており、2022年には「全社DX推進プロジェクト」を発足。デリバリー効率を最大化するための配達員専用アプリの導入、デジタルメニューブック(セルフオーダー端末)の導入と機能向上、各種電子決済手段や事前決済システムの導入など、組織全体でDXの推進に力を入れています。
同社は諸領域のDXを通してPOSに蓄積されるデータが拡大、また解像度が上がり、分析に基づく改善を実施することで顧客体験を向上させてきました。多店舗展開している企業に限らず、しっかり利益を出して存続している店舗は当然のようにPOSデータを活用しています。利益の確保が厳しくなっている今だからこそ、効率的な経営を実現するための取り組みが重要です。
データを正しく機能させる戦略立案のポイント
データを活用することで効果的な経営戦略が可能となりますが、多くの企業が蓄積されたデータを分析できていない課題に直面しています。
高度な分析を実現するポイントの一つがデータ統合です。異なるシステム、データの統合により、単なる業務効率の向上を超えた高度な分析が可能になります。たとえば、POS・決済システムとシフト管理ツールの連携は人時生産性の計算を可能にし、顧客台帳システムとの連携は来店頻度に基づく購買傾向や顧客情報の深い分析を可能にします。
次に、見落とされやすいポイントとして、運用者のITリテラシーに配慮が必要です。 たとえば、分析機能にはPOSシステムごとに差異があり、現場のスタッフが分析ツールを日々の営業に活用する場合、グラフやリストなどアウトプットの形式によっては理解が難しい可能性があります。もちろんローデータがあれば詳細情報の抽出は可能ですが、深く分析するには相応のデータ処理能力が求められ、作業工数も肥大します。日々のデータを細かい戦略に落としてすぐ対策するスピードが求められる飲食店運営において、データ処理や分析に時間をかけることは致命傷になり得る重い枷です。
またPOSシステムにおけるデータ入力の設定精度と、店舗管理者のデータ活用意識も重要です。初期設定には注意を払っていても、新規商品の追加時のデータ設定や運用がおろそかになる傾向があります。よくあるケースで、期間限定の商品を「季節メニュー」のような汎用的なキーで使い回し、名称や金額だけ変えて運用されてしまうことがあります。これでは「どの季節にどんな商品が売れたのか」「単価設定」「ターゲット層」など詳細な分析ができず、次回への改善にも活かされません。
また、スタッフがPOSやハンディに直接注文登録する際、カテゴリや名称が設定されていないキーに金額を手打ち入力して処理される運用が行われることもあります。現場運用者がデータ分析につなげる意識を持っていなければ、前述のような現場にとって簡単な方法で処理されやすいです。飲食店現場では柔軟な対応が必要であり、目の前の顧客対応を優先することで運用方法が変更されることもよくあります。
データ分析の意識が足りていないとデータの完全性が損なわれ、蓋を開ければ形骸化されたデータしか残っていない…。そんなデータの実態を数えきれないほど見てきました。特にこれからの時代は、AIによるデータ活用が期待されています。いざデータを活用するタイミングで実態と違ったデータが蓄積されていると、競合他社に遅れをとるだけではなく、誤ったデータから誤った戦略を立案してしまうリスクも孕んでいます。
POSや決済のシステムをただ導入するのではなく、どのようにデータを蓄積し戦略立案に活かすのか。現場運用まで考慮されたオペレーション組みが求められます。
- ※QRコードは株式会社デンソーウェーブの登録商標です。
今回は株式会社Core Driven 代表取締役 吉田氏にPOS・決済システムの活用に関するテーマで執筆いただきました。
本コラム内で取り上げているタブレット型POSや専用端末のPOSレジのほか、キャッシュレス決済に関するソリューションなどNECプラットフォームズにて提供しております。
ぜひ、お気軽にお問い合せください。
株式会社Core Driven
代表取締役/CEO 吉田 柾長氏
株式会社ぐるなびの営業部にてセールス・カスタマーサクセス、企画部ではマーケティングとプロジェクトマネジメントを経験。
その後、株式会社アスラボにて、自社ITサービスを導入した横丁を全国にプロデュースする事業の経営企画とマーケティングを兼任。
2020年4月に飲食業界専門マーケターとして独立、同年8月には株式会社スペリアルを取締役COOとして共同創業し、飲食店を経営。
2021年9月に株式会社Core Drivenを代表取締役として創業、DXサービスの代理店販売事業、飲食店のプロデュース・運営代行事業を展開。飲食店とIT企業、どちらの立場にも寄り添ったスタンスで飲食業界のアップデートに取り組む。
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