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付加価値とブランディングを生かした飲食店の食材値上げ対策

元フレンチ出身の飲食店運営者・飲食コンサルタントが語る「フードロス」や「食材値上げ」対策について

2023年04月18日 カテゴリ:コラム

執筆者:株式会社SYNC 代表取締役 西野 輝氏

食材値上げの現状と収束の見えない飲食店への打撃

2022年は食材高騰の1年でした。ロシア・ウクライナ情勢などの不安定な世相により小麦や原油の価格が高騰し、急激に進んだ円安でさらに値上がりしました。飲食店でいうと食べ物全般だけではなく、テイクアウトの包材などにも影響はおよび、最終的に2022年の価格改定品目数は約2万品目、値上げ率は平均14%にもなりました。※1それに加え最低賃金や水光熱費も上がり、飲食店だけではないと思いますが、かなりの打撃を受けています。この現象はいまだ収束が見えず、23年も値上げが続き2月、4月にも私のお店にメーカーから値上げの通達が来ている状況です。飲食店は今までの販売価格のままでは太刀打ちできない状況にあることをご理解いただければと思います。

消費者のニーズに応えるための料理への付加価値

ではどのようにこの状況を乗り越えていくのか。

まず私の主観ではありますが、このような状況下で中小規模の飲食店で販売価格を抑えているお店はかなり苦戦にしているように感じ、反対に大手や高級店などは値上げをしてもお客さまが離れていかないお店が多くあるように感じます。

その理由として、価格を抑えて販売しているお店は、価格の据え置き対策として仕入れ食材の金額を抑制しようと考えます。たとえば、今までより多少食材の質を落としても低価格で仕入れをしたり、今まで5個入りだった唐揚げのメニューを4個入りで販売したり…そのような努力で運営を行っているお店もあるのではないでしょうか。

決してその対策が悪いわけではありません。しかし、今現在のお客さまのニーズに合っているのか?という点が重要なのだと思っています。

飲食店で苦戦しているのは食材の価格高騰だけではなく、コロナ禍の情勢も根底にあり、お客さまの意識の中には、外食へのハードルが下がっていない状況が引き続き存在していると考えています。なので外食をする理由として、家では作れない、食べられないようなメニューをお店に求めているのではないでしょうか。結果、世の中の動向を見てもファミリーレストランと呼ばれる業態は縮小傾向にあり、専門店(焼肉や寿司などの専門的なチェーン店)などは業績を伸ばしている状況がみられます。その裏付けとして現在のファミリーレストランは監修メニューや高価格帯メニューを打ち出し、付加価値を付けたメニューが増えているかと思います。

逆に高級店がなぜ強いのかというと、高い技術をもったシェフがいることで、メニューに付加価値を付け差別化を図れているからだと思います。事前におすすめのメニューなどを決めてしまっていると、高い食材でも使用せざるを得ない状況になってしまう。しかし臨機応変に対応できるスキルがあれば、その状況に応じてメニューを調整することも可能です。たとえば旬の食材が安く手に入ったときなど、それを加工して付加価値を付けることで何倍もの価値が生まれるものだと感じています。そうした結果、お客さまがリピートしてくださるお店につながるのではないでしょうか。だからこそ、お店ごとのブランディングが必要になると日々感じています。

また前回前々回とフードロスのお話をしましたが、たとえおいしい料理にできるものでも、『捨てられるもの』という名前を付けられ低価格で販売していれば、いつまでたってもその商品の価値は上がりません。それが料理人の技術やアイデアによって、『捨てられるもの』という認識を超えて生まれ変わる時、新たな価値が生まれ、ブランドとして成り立つのではないでしょうか。

食事をしている女性の風景

食材発注システムや他業種とのタッグで広がるブランドの可能性

これまで私がお伝えしたのは主に料理に対しての対策方法でしたが、やはりそれだけでは高騰する食材費を抑えることは難しいでしょう。その他の活用できる方法としてDX化も挙げられるかと思います。昨今の飲食店での人員不足解消、コロナ禍で普及した非接触型のサービス提供、また混雑緩和や衛生面での不安解消など、デジタルツールを活用することで戦略が立てられ、集客率の向上につながる例もあります。ただ、私自身はそのような対応方法とは別に違うシステムを導入しています。

ここでは私のお店で実際に使用している、食材発注・受注システムを紹介します。飲食店の人件費がどこにかかるのかというと、調理や接客などを想像される方が多いと思います。しかし、各食材の発注というものは想像以上の労力を割くものです。

たとえば野菜とひとくちにいっても、にんじんはAの八百屋に、玉ねぎはBの八百屋に…などそれぞれの発注先に問い合わせることもあります。大変手間ですし、仕入れや発注額の管理も煩雑になってしまいがちです。規模が大きいお店やホテルなどではそれぞれの食材に「発注担当」がいるくらいですから、その大変さが想像できるでしょう。そこで私のお店では、それら食材の発注を一括で管理してくれるプラットフォームサービスを利用しています。今まで電話やFAX、メールなど発注先ごとに異なっていた窓口が一括で管理されており、食材の発注がスマホ一つで完結してしまうわけです。

また、発注の履歴やデータも保存されるので、これまでのように紙やPCでまとめる必要もありません。人件費の削減につながるのはもちろん、その分の時間とお金を、商品開発や経営に回すことでブランド力のアップにつながっていくと思います。

さらに、飲食の分野だけでなく、他業種の方とつながりをもつことも大切です。ここでは私が行っているアパレル業界の方とコラボレーションした例を紹介しましょう。といっても、お店のロゴや服飾を作成してもらうのではなく、どちらかというと時間のシェアという形式に近いでしょうか。

私が経営している飲食店のピークの時間帯はランチとディナーの時間帯になります。ランチ終了後からディナーが始まるまでの時間帯はアイドルタイムといって来客が極端に減ってしまうため営業しないお店もありますが、実はアパレルの方々は私たちのアイドルタイムに休憩を取る方が多いのです。なんとかその時間帯を有効活用し、私のお店をご利用いただけないかと考えました。もちろんそのままご利用いただくのではなく、該当のアパレル企業のIDを拝見することで我々は割引価格でランチをご提供し、お客さまはその見返りとしてSNSなどで当店の情報をアップしていただきます。

そうすることで企業は福利厚生の一環としてお手頃価格で食事ができ、私たちは来客アップとSNSの発信でお店の宣伝につながります。またIDを拝見することでその方が何回通っているのか、SNSの投稿を見ることで嗜好なども分析することが可能です。こうした他業種とのつながりを生かした例も、飲食店のブランドとしての可能性を広げ、新しい世界が見えるきっかけとなるでしょう。

スマホを操作している女性

まだまだこれから先が見通せず過酷な状況が続き、フードロスや値上げなどの課題も多いですが、その分可能性も十分にあると思っています。その可能性を追求し、お客さまに喜んでいただける食のご提供に取り組み、努力を重ねていきたいと思います。

株式会社SYNC
代表取締役 西野 輝氏

フレンチの料理人出身。産直野菜にこだわりをもつ「sage & fennel」をはじめとした飲食店、百貨店内ブティックデリ、ポップアップストアなどを運営。そのほか、ケータリング、デリバリー、メニュー監修、商品開発等を手掛ける。また飲食コンサルティング事業として、オペレーションの再構築なども行っている。

株式会社SYNC  sage & fennel店舗の写真

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