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コロナ禍が加速させた技術活用にみられる今後のフードロス対策

元フレンチ出身の飲食店運営者・飲食コンサルタントが語る「フードロス」や「食材値上げ」対策について

2023年04月04日 カテゴリ:コラム

執筆者:株式会社SYNC 代表取締役 西野 輝氏

フードロス対策がもたらす経営視点のメリット

前編ではフードロスについての大企業の取り組みや、私が行っているフードロス対策についてお話しました。前回のコラムを読まれている方は、この対策が企業側にとって負担にしかならないと感じているかもしれませんが、今回はフードロス対策による経営側のメリットをお伝えしたいと思います。企業としては強制的に取り組まないといけない対策ではありますが、フードロス対策を行う利点はたとえば下記が挙げられます。

  • 材料費の抑制
  • 人件費の抑制
  • 水光熱費の抑制
  • ごみの処理代金の抑制

順を追って説明すると、お客さまが来店する分だけの食材でメニューを作ればおのずと材料費は減ります。仮に過剰に仕込んでしまい廃棄食材が増え、販売数が減ってしまうと、売上高に対しての材料費の割合が高くなるので、お店にとっても負担となります。そうなると、販売価格を検討せざるを得ません。もし、食材のロスが極力少なければ材料費が抑えられ、その分お客さまにボリュームのあるメニューや、適正な価格の商品をご提供できるようになります。

食材のイメージ写真

人件費の抑制についても先ほどの記載に関連していますが、実際に来店するお客さま以上に料理を作れば無駄な調理時間が発生してしまいます。最近ではアルバイトの最低賃金は毎年上がっていますので、必要のない人件費を抑制できれば、お店にとってメリットが増えると思います。

そして昨今、水光熱費は上がる一方で、実はこの水光熱費がお店にとって負担となっています。しかしお客さまの目から、その実情はなかなか見えにくい。だからこそ、お店にとっては販売価格を上げるのではなく水光熱費の抑制を心がけたいところです。もちろん、無駄な調理はしないことが前提ですが、たとえば廃棄になる前の食材を一度に調理し、真空や冷凍で保存するなどしたら、有効的な水光熱費の使い方になるのではないでしょうか。また、ごみの処理代金は一律の金額で回収してくれる場合もありますが、重量で換算する場合もあります。水切りをするなどの工夫に加え、食材の根本などの捨てる食材を減らす取り組みをしていければ、フードロス撲滅に貢献しつつ、ごみ処理のコストをカットできるというメリットにつながります。

しかし、メリットばかりではありません。食材のロスを気にするあまり、仕込みを抑えすぎるとすぐに売り切れにさせてしまい、販売するものがなくなってしまうと商機も逃し、それが頻繁に起こると客離れにもつながります。私はその対策として、お客さまの来客予想は過去のデータや時世を踏まえて立てています。すると天気によって客数に変化が見られたり、近隣でのイベントが開催されるときに変化が見られるのです。そういったデータの比較、蓄積から予測を立ててみるのもいいかもしれません。

コロナ禍で加速した最新冷凍技術や予約システムの導入

コロナの影響で、居酒屋やファミリーレストランをはじめとする外食業態はかなりの打撃を受け、営業業態も随分変わりました。そんな中、飲食店はさまざまな工夫を凝らしてきました。たとえば、外出ができない方に向けたお取り寄せグルメや人気の飲食店の冷凍食品自動販売機、またネットでの事前注文システムなど。最近では外出制限が緩和され外食産業も少しずつ活気が戻ってきましたが、これらのシステム活用を続けているお店も多くあると思います。まだコロナの終息が見えていないという不安もあるのかもしれませんが、お客さまがそのシステムに非接触で購入できることなどをメリットとして感じているからだと思います。

加えて、実はそのシステムはフードロス対策の一環になり、お店の経営にも一役買っているのだと思っています。

冷凍食品の自動販売機はいい例です。料理を冷凍し販売すれば賞味期限が伸びるわけですから、ロスになる食材もかなり減ります。もちろんそれだけではなく、レストランのようにいつ来るかわからないお客さまを待っている人件費や水光熱費も軽減できるわけですから、取り組みたいと思うお店があるのは当然だと思います。お客さまにも、遠方のお店や、並ぶようなレストランの味を、家で味わえるなどのメリットがあります。私がメニュー開発で携わっている企業の方も冷凍食品の最新機材を導入されており、お話を伺ったことがあります。その際に、技術革新を使って新しい販売ツールとコロナの影響で食のシチュエーションとニーズが変わったことによる、販路拡大につながるのではないか?と感じました。

しかしながら私自身が導入まで至らなかったのは、上記の通り水光熱費が高騰しているだけではなく、冷凍食品を作る機材を導入するのは容易ではないからです。お店の冷凍庫で冷凍するだけではご家庭でお店の味を再現するのは難しいので、専用機材の導入や、お客さまの解凍方法の検証、その他にスペースや金銭的な問題など色々な要因も出てくるかと思います。どんなお店でも導入できるようになるのは、すぐには難しいかもしれません。しかし予約システムなど非接触型のシステムについては、今後も増加すると思っています。

テイクアウトシステムや予約システムの普及は、お客さまの動向が読みやすくなった要因の一つ。これによって今まで以上に仕入れや来客の予想を立てやすくなるはずです。コロナで失われた物も大きいですが、新たな方法であらゆるロスを減らし、お店を盛り立てるようなシステムの普及は、飲食業界にとっていい流れなのではないかと感じています。

フードロス対策に対する消費者との意識の差に経営者ができること

フードロスの現状や対策について、ここまでいろいろと述べてきました。企業は課題として取り組まなければいけませんが、お客さま側の意識はいかがでしょうか。食品売り場で、すぐ食べる物でも賞味期限が長い物をあえて選んで買っている方もいると思います。お店としては、売り切れで選ぶ種類が少ないと客足が遠のいてしまうので、常に一定量の陳列やメニュー数を確保しなくてはいけません。そのような現状を見ていると、まだまだフードロスへの取り組みが浸透していないのだと思いますし、日常としてフードロス対策を行っているというより、残念ですがイベントのような取り組みに見えてしまうときもあります。

スーパーマーケットでの食品選びのイメージ写真

もちろん、フードロス対策に取り組もうと新たなシステムや技術を導入するのは、経営的なメリットもありながら、費用もかかるしリスクもついて回るでしょう。しかしフードロス問題はSDGsに深くかかわる問題。持続させるには、環境に深く配慮しつつ、企業、生産者、顧客にとっての利点を生みだしながら、サイクルにしていく必要があるのです。今は、そのような取り組みを経営側がひとつずつ行うことで、消費者をはじめ周囲の方々の気付きのきっかけ作りになっていればと思っています。

株式会社SYNC
代表取締役 西野 輝氏

フレンチの料理人出身。産直野菜にこだわりをもつ「sage & fennel」をはじめとした飲食店、百貨店内ブティックデリ、ポップアップストアなどを運営。そのほか、ケータリング、デリバリー、メニュー監修、商品開発等を手掛ける。また飲食コンサルティング事業として、オペレーションの再構築なども行っている。

株式会社SYNC  sage & fennel店舗の写真

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