サイト内の現在位置を表示しています。
ウイルス感染状況に翻弄され続け業態ごとに明暗くっきり
「月刊飲食店経営」の編集長が語る! 外食業界コラム2022年の外食業界を総括2023年01月17日 カテゴリ:コラム
執筆者:月刊飲食店経営 毛利 英昭氏
2020年2月に、横浜港で検疫中のクルーズ船内で確認された新型コロナウイルス感染症。それから3年になるが、今も社会全体に大きな影響を与え続けている。人同士のふれあいを大切にするホスピタリティ産業の一つである飲食店は、本来の役割を発揮できない状況が続き、大きな打撃を受けてきた。
今回は、こうした状況にどのような変化が出てきたか、一般社団法人 日本フードサービス協会の月次データを基に、22年を振り返ってみる。
資料:一般社団法人 日本フードサービス協会「データからみる外食産業」月次データを基に作成
- ※データは日本フードサービス協会の協会会員社を対象に集計
- ※2022年12月20日時点で11月以後のデータは未掲載
新規感染者数の増減に翻弄されながらも回復の兆し
22年は、新年を迎えてすぐから新型コロナウイルス感染者数が急増。第6波に突入したと報じられ、その直後には沖縄県、広島県、山口県にまん延防止等重点措置が発出された。 2月に入ってからは、過去最多(当時)の新規感染者数となり、全国で3万人の感染者数を数えた。
こうした事態によって、またも飲食業界は大きな打撃を受けた。特にパブ・居酒屋業態の2月の売上を見ると、コロナ禍前の19年との売上比較で22.7%と、深刻な事態となったことがわかる。その後、感染者数はなだらかに減少し、経済活動と感染対策の両立に動き出したことで、外食業界の売上も上昇傾向になったことが見て取れる。
しかし、7月には第7波がやってきて、夏休みの8月を直撃。各業態とも売上に影響があった。その後、政府与党が感染症対策と社会経済活動との両立を掲げ、旅行支援を表明するなどしたことで、withコロナの意思が生活者に伝わり、外食業界にもプラスとなって表れ始めた。
そして11月に入ってまたもや感染者数が増え、11月16日には、日本医師会が第8波に入ったと表明。年末のかき入れ時にまたも苦しめられる事態になるかと思えたが、忘年会を早めたり、少人数での集まりにしたりなど、20年、21年とは違う姿が見え始めた。感染対策と経済活動の両立という新しいあり方が、外食業界にプラスに働き始めている。
また、10月11日の訪日外国人の新規入国制限の見直しを受け、観光名所を中心に外国人観光客が戻り始めた。日本政府観光局の発表によれば、11月の訪日外国人は100万人に迫っている。ただ、中国からの観光客が戻らないために、19年比ではまだ4割に満たない水準で、コロナ禍前の賑わいにはほど遠いものの、23年は大いに期待が持てる。
業態によってはっきり分かれる明暗
飲食業界といっても業態はさまざまだ。パブ・居酒屋、ディナーレストラン、ファミリーレストランなどが大きな打撃を受ける中、ファストフードだけは、2019年を上回る売上を上げている。
個食中心に日常食を提供するというファストフード業態が、コロナ禍でのさまざまな食事スタイルに対応した結果だ。
いち早くモバイルオーダー、モバイル決済に対応したテイクアウトの仕組みを提供し、デリバリーも積極化するなど、その変化への対応は早かった。ITを活用したDXで事業再構築を図ったことが大きく貢献した。
小売業でいうところのBOPIS(Buy Online Pick-up In Store)という、消費者にとって最も便利な買い物スタイルの提供と同じく、飲食店版BOPISを構築したのもファストフードであった。他の業態でも、めざましい進歩を遂げた冷凍技術を活用し通信販売やテイクアウト、デリバリーで、失った売上の一部を取り戻した企業もある。
だが、アルコールを提供し、人が集うことに主眼を置いたパブ・居酒屋の苦戦は続いている。しかし、年末にかけて、店の感染対策への努力とお客の対策を考えた利用によって、売上は好転の兆しが見えている。
一方で、コロナ禍でやむを得ず始めたテレワークが常態化してきた。大手企業では、業種や職種によるものの、中には70%は在宅、出社率は30%程度を維持することになるといった声を耳にする。
都心のオフィスでは、出社率に合わせて賃貸契約を見直す企業が後を絶たない。だが、大企業は日本の企業総数の1%にも満たない。99.7%は中小企業であり、従業者数でも69%の人が中小企業に勤務している。その7割すべてがテレワークになるということはないだろう。いずれはコロナ禍前の賑わいが戻ってくる可能性は高い。
ゼロゼロ融資でピンチを脱したが新たな心配も
ゼロゼロ融資は、コロナ禍の20年3月に始まった、政府系金融機関による企業や店への特別貸付。コロナ感染拡大で売上が減少した企業に実質無利子、無担保で融資する仕組みのことで、飲食店に限らずあらゆる業界の多くの企業が融資を受けてピンチを脱した。実際、東京商工リサーチによれば22年上半期の飲食業の倒産件数は、過去20年間で最少だったという。
借り入れ条件によって返済猶予期間に違いはあるものの、その融資の返済がいよいよ始まっている。22年からすでに元本の返済を開始している企業も多いが、23年からは本格的に返済が始まる。
ゼロゼロ融資は、コロナ禍で窮地にあった店を救ってくれたが、返済は待ったなしでやってくる。よもや3年もこうした事態が続くとは思っておらず、22年末のかき入れ時に稼いで、返済への弾みを付けようと考えていた経営者は多かったはずだ。
それが、いまだに感染状況に一喜一憂する事態が続いている。特にパブ・居酒屋業態の店の中には、この冬の売上に存亡がかかっているという声も聞かれ、この先、23年からの挽回に期待がかかる。
以上、22年の外食業界について簡単に振り返ってみた。業態によって利用動機が異なる外食業界。23年は、それぞれの業態が持つ魅力を大切にしながら、ITなどを活用して強みに磨きをかけ、外食の楽しさを高める取り組みがさらに進むことだろう。
月刊飲食店経営 毛利 英昭氏
コンサルティング会社に16年間在籍後、2007年4月に独立し(株)アール・アイ・シー設立。外食・小売業界を中心に業務改善やシステム構築分野のコンサルティングと社員教育などを中心に活動。
2015年に商業界から、「月刊飲食店経営」「月刊コンビニ」の出版事業を引き継ぎ、現在は編集長を兼務している。
他のコラムを読む