サイト内の現在位置を表示しています。
飲食店のDX活用で生まれたビジネスモデル
10,000店舗の飲食店に携わってきた分析コンサルタントが語る「飲食店DX」について2022年07月12日 カテゴリ:コラム
執筆者:株式会社Fun and Pride 代表取締役 前村 佳槻氏
DX化により戦略立てたデリバリー運用が可能に
前回のコラムで触れたDX化で生まれた新しいビジネスモデル、ヴァーチャルレストラン(以下、VR)ゴーストレストラン(以下、GR)について、どのような形で飲食店に浸透しているのか、詳しく話していきたいと思う。
そもそも一般的なデリバリーサービスは、店舗と配達員と消費者のニーズをマッチングすることで、ビジネスが成立する仕組みとなっており、店舗側は注文管理のためにタブレットなどの端末を準備する必要がある。
通常であれば、1業態に対して1つの端末が必要になり、VR・GRをひとつの店舗で複数業態運用しようとすると業態の数だけ端末が必要になり、また複数のデリバリーサービスに登録すると、更に登録数分の端末が必要になる。
そうなると、店内に何台もの端末が設置されることになり、スペースを取られるだけでなく、オペレーションも非常に煩雑になる。イートインの通常営業を行わない店舗であれば、そのような形での稼働も不可能ではないが、通常営業を伴いながら運用する店舗では、煩雑化された仕組みは多くの混乱を招くことになるだろう。
そんな問題を解決するサービスも登場している。店舗で行う複数の業態と複数のデリバリーサービス出店を、1つのタブレットで簡単に一括管理ができるサービスだ。
- ※一括管理サービス導入で煩雑なオペレーションが緩和された例
このようなサービスはいくつもの企業が提供しているが、例えばある企業が展開するサービスを見ると、複数業態・複数デリバリーサービスに展開しているGRブランドの注文を一括で管理できるだけではなく、各デリバリーサービス別、商品別、業態別、時間帯別など、このサービスを通じて得る注文の分析もできるようになっている。自社の商品の売上を全体的に分析できるのはもちろん、デリバリーサービスごとに分析を行えるため、オープン後のメニューの設計や業態のブラッシュアップのための指針を得ることができるようになる。
飲食店にとって、こういったデータは貴重であり、デリバリーの売上を拡大していく上では欠かせないものとなるため、私はこういったデリバリー一括管理サービスを積極的に活用することでしっかりと戦略を立てたデリバリー運用が可能になると考えている。
デリバリー売上を拡大させた業態からVRのFC化ビジネス
では、デリバリー売上が拡大したのちにどのようなビジネス展開が待っているのか?この話は実際に私が開発から関わったブランドを例に挙げて話していきたいと思う。
株式会社Ea-quesT(東京都大田区、代表取締役 浅野 博之)が展開する「漁師町三代目牛とろいくら本舗 」というブランドである。
このブランドは、贅沢ご褒美丼をご自宅でというコンセプトで生まれている。贅沢ご褒美丼の内容は、厳選された牛肉の『ざぶとん』と呼ばれる部位を使用し、それをサッと炙ることで香ばしさが増したお肉と、目利きした『いくらの醤油漬け』を合わせるという贅沢な丼である。牛肉といくらの組み合わせは、あるようでなかった組み合わせで、お肉と海鮮が見事に共鳴したグルメ通も唸る仕上がりとなっている。
また、多彩なトッピングも用意されており、デリバリーの特徴である”自分色にカスタマイズできる楽しさ“も加わり、導入後瞬く間に人気ブランドへと成長していった。
同ブランドは2020年10月に東京の神保町エリアでスタートし、3カ月後には月商150万円を超えており、その後すぐに月商250万円を達成するブランドとなった。浅野氏はこの業態のビジネスとしての可能性を感じ、売上データを詳細に分析する。売れ筋のメニューのブラッシュアップは当然ながら、時間帯別の売れ筋や、価格設計のABテストなどを繰り返し、ブランドとして強固な基礎を作り上げていった。その後、商品に関わる全てのものをパッケージ化。2021年3月よりトライアル的にFC募集を行い、2021年5月から本格的にFC加盟の募集を始めた。
コロナ禍で苦戦する飲食店舗に新しいキャッシュポイントを与える同FCは、加盟した店舗の実感による口コミを中心に着実に加盟店舗数が増加していった。現在では全国90店舗にまで拡大している。(2022年6月現在)
また、同ブランドは、ガスバーナーひとつあれば完了する調理オペレーションという簡素化された作業工程の気軽さから、加盟店舗の属性もバラエティに富んでいて、居酒屋やレストランはもちろん、Bar・カフェ等の軽飲食といわれる業種の加盟店舗も見られる。
このように、ひとつのブランドが生まれて1年半余りの間で、全国90店舗にまでビジネス拡大するということがまさにビジネス変革を意味すると私は思う。
FCを仕掛ける本部には、ロイヤリティ等の新たなキャッシュポイントが生まれ、加盟店舗側にもイートイン売り上げにプラスしてデリバリーの売上を獲得できるようになる。コロナ禍の飲食店が新たなビジネスチャンスを見出したVR戦略はまさに、飲食店のDX化のひとつの形だと感じる。
コロナが落ち着き、イートインの売上が戻ってきたときに、デリバリーの売上をいかにプラスで構築できるかで、1店舗当たりの売上と利益が向上する大きなきっかけとなることは、容易に想定できそうだ。
株式会社Fun and Pride
代表取締役 前村 佳槻氏
料理人としてキャリアスタート、その後14年間、料理人・バーテンダー・サービススタッフとして飲食店の現場第一線に身を置きながら新規店舗立ち上げや、メニュープロデュースなど、リアル店舗の0→1を作る仕事を行う。その後、食を中心としたIT広告企業へ移る。飲食店をweb視点と自身の経験による現場視点の両方で分析、各店舗の強みや狙いを活かしたマーケティングで、延べ10,000店舗以上の売上改善のお手伝いをする。また、食のデジタルマーケティングにも取り組み、飲食店がクラウドファンディングを仕掛けるためのビジネスモデルの立案や、サブスクリプション型飲食店の業態開発などのお手伝いを行う。コロナ禍で急加速に拡大するデリバリー・テイクアウトの中食業界にもいち早く参入し、ウーバーイーツや出前館などのデリバリーアプリ上でどうすれば注文率の向上が見込めるか?を研究・分析し、マーケットインの視点で40業態以上を開発。現在では飲食店の開業支援やVRの開発、新ブランドの立ち上げやビジネスモデルの立案など飲食業界の新たなキャッシュポイントを創出するコンサルティングを中心に活動している。
他のコラムを読む