サイト内の現在位置を表示しています。
本当の意味での飲食店DX化のために持つべき未来への視点
10,000店舗の飲食店に携わってきた分析コンサルタントが語る「飲食店DX」について2022年10月18日 カテゴリ:コラム
執筆者:株式会社Fun and Pride 代表取締役 前村 佳槻氏
DX化による飲食店のジョブエンリッチメントとジョブエンラージメント
これまで、いくつかの切り口で飲食店のDX化について考えてきたが、単なる業務のIT化と、本来のDX化にはやはり大きな違いが存在するように思う。
DX化を行い、飲食店のジョブエンリッチメント(職務充実)とジョブエンラージメント(職務拡大)、この両方がかなうことによって、ビジネス変革の基盤が作られ発展していくものだと考えられる。
ジョブエンリッチメントとは仕事により責任を持たせる、自己判断範囲を広げるなど、仕事の質を向上させるための業務構築であり、ジョブエンラージメントとはいわゆる仕事が単調化せず、より多角的な視野を獲得するための業務構築である。
少し前に話題になったハンバーガーショップ。当時メディアに取り上げられていたのは、オーダーシステム・会計・受け渡しを完全非接触とし、時代に適したグルメバーガー店としてのスタイルだった。
オープン当時から圧倒的なにぎわいを見せており、日本発の世界ブランドを目指す、飲食店のDX化の成功例ともてはやされていた。 店舗を『完全キャッシュレス化』にし『テイクアウト専門店』にすることで、家賃や内装費・人件費などの経費を極限まで軽減させる。そうすることで商品原価に多くの投資を行い、通常のレストランであれば30%程度かかる原価率だが、同店舗では驚異の68%を実現していた。
2,000店舗拡大も夢じゃないといわれていた同店だが、FC店などは、半年で閉店するような不振店に陥ったり、テイクアウト専門店として開発された業態にもかかわらず、展開された店舗の中にはイートインスペースが設けられるような店舗も存在した。あたりまえだが内装費はテイクアウト専門店より多くかかり、人件費も多く必要になる。元々のビジネスモデルが崩れる形になってしまった。
そういった変化の背景にはさまざまな要因があるのだと思う。例えば、完全非接触で事前オーダー、テイクアウト専門店ということだけで考えれば、私が顧客であればよりスピードを持って商品を手にしたいと考えるだろう。ところが、オープン当時から話題で行列ができており、店頭の端末でオーダーする場合は順番待ちが発生してしまう。アプリなどで事前オーダーをした場合でも、店内調理のオペレーションが追いついていなければ、受け取りに時間がかかり思うように取りに行けないこともあるだろう。
そうなるとイメージとは違うため、顧客はリピートしにくくなる。
家賃や内装費・人件費などの経費を極限まで軽減させた分、原価をかけて高品質な商品を低価格で提供するというビジネスモデル自体はとても受け入れられやすい内容だが、オペレーションの入口から出口までを完全にDX化できていれば、顧客満足度はさらに上がっていたように思う。
入り口部分がIT化され、オーダー効率が上がったにもかかわらず、調理工程は全て人の手で行っていては、業務格差が生まれ、本当の意味でのDX化に発展しなかったのではないかと思う。
例えば、オーダー・会計は非接触にし、調理は調理ロボット、提供時間の管理もITを駆使する。顧客接点とバックヤードを一連のシステムでつなぐことができれば、現在オーダーしたものが何分後にテイクアウトできるのか?をより正確に表現できるようになる。また、専用アプリでは調理工程が可視化できるなどの工夫があれば、想定より長く時間がかかったとしても、気になる要素は少なくなるだろう。
また、従業員から見てもオーダー・調理・受け渡しを行う必要がないため、それぞれのシステムが正常に動いているか?の管理の部分を行うだけでよい。場合によってはプログラムされたメニューやデータを駆使して、その日の天気に最適な商品ラインナップなどを提供することも可能になる。マーケティング要素がより強くなる業務内容になるだろう。
つまり、オーダーや非接触会計にすることで、店舗にとってのジョブエンラージメントが構築され、調理や時間管理のさらなるDX化によって、店舗にとってのジョブエンリッチメントが構築される。そうなると本来の意味でのビジネス変革となり、圧倒的な業態優位性になると私は思う。
技術や言語の壁がなくなる?飲食店の未来について
入口から出口まで全てDX化されたオペレーションが構築されるような業態であれば、従業員の調理レベルや接客レベルなどの問題からは解放される。また、プログラムされた言語を多言語化することで、顧客への案内はもちろん、従業員に対しての言葉の壁もなくなるだろう。
そうすることで多国籍の従業員が活躍できるフィールドになり、誰もが安心して利用できる店舗になるように思う。もちろん、テーブルサービスが必要な業態であれば、全てがその形に表現できるわけではないが、ファストフードでテイクアウト専門店というモデルにすれば、DX化における恩恵は大きいだろう。
世界的にも日本食はブランドになっており、多くの国で人気が年々高まっている傾向にある。店舗数も多いが、実質的に日本人が経営している店舗やブランドは多くはなく、グローバルに馴染んだ中国人経営者などが展開しているケースも見受けられる。
飲食店で、DX化を中心に添えた業態開発を行うことができれば、どの国でもどんな従業員でも比較的安定した形で、より本物に近い日本食を提供することが可能になる。
現地ではロボットやAI、システム化されたサービスが提供され、本来の日本人が得意とするおもてなしの部分は遠隔で提供するような仕組みまで導入できれば、高級寿司店や割烹料理店も完全DX化された形として世界各国に提供できる未来が訪れる可能性もある。
大げさな話になったが、いずれにしても飲食店の抱える問題点など、DX化を導入することで解決へ向かう内容は多く存在する。今現在運営している店舗にも、将来的に完全DX化になることを想定し、まずはちょっとした部分から変化を起こしていくべきではないだろうか。
DX化に対する技術やシステムは変化も激しく、また選択肢も多く複雑な内容のものも多い。自社としての基準や理想を固めていく意識をもつことが、DX化の本当の意味での第一歩になるだろう。
明るい未来を見据えるのであれば、積極的に情報に触れ、DX化導入を実際に取り組んでいる店舗へ足を運び体験することをおすすめしたい。
株式会社Fun and Pride
代表取締役 前村 佳槻氏
料理人としてキャリアスタート、その後14年間、料理人・バーテンダー・サービススタッフとして飲食店の現場第一線に身を置きながら新規店舗立ち上げや、メニュープロデュースなど、リアル店舗の0→1を作る仕事を行う。その後、食を中心としたIT広告企業へ移る。飲食店をweb視点と自身の経験による現場視点の両方で分析、各店舗の強みや狙いを活かしたマーケティングで、延べ10,000店舗以上の売上改善のお手伝いをする。また、食のデジタルマーケティングにも取り組み、飲食店がクラウドファンディングを仕掛けるためのビジネスモデルの立案や、サブスクリプション型飲食店の業態開発などのお手伝いを行う。コロナ禍で急加速に拡大するデリバリー・テイクアウトの中食業界にもいち早く参入し、ウーバーイーツや出前館などのデリバリーアプリ上でどうすれば注文率の向上が見込めるか?を研究・分析し、マーケットインの視点で40業態以上を開発。現在では飲食店の開業支援やVRの開発、新ブランドの立ち上げやビジネスモデルの立案など飲食業界の新たなキャッシュポイントを創出するコンサルティングを中心に活動している。
他のコラムを読む