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予想される2022年外食業界を取り巻く変化と課題
「月刊飲食店経営」の編集長が語る! 外食業界コラム2022年05月31日 カテゴリ:コラム
執筆者:月刊飲食店経営 毛利 英昭
新型コロナウイルスの感染拡大も緩やかに収束に向かう傾向にあり、いよいよ日常の生活を取り戻しつつある。今年のゴールデンウィークは3年ぶりに行動制限がなくなり、これまでの鬱憤を晴らすかのように各地で賑わいを取り戻した。
しかしその一方で、飲食店の状況は業態によってまだら模様。世界情勢が不安定で円安や人手不足、人材の奪い合いも激しさを増す。はたして、2022年の外食業界はどうなるか。 昨今の情勢を踏まえて予測してみたい。
業態別の売上動向…業態間格差は解消せず
外食産業総合調査研究センターによれば、2021年の外食産業の市場規模推計値は、18兆2005億円。驚くことに前年比30.7%減という信じられない数字が公表された。
一時は、30兆円に届くのではともいわれた業界だが、コロナ禍で状況は一変した。 だが、業態別の動きをみると、明暗がはっきりと分かれている。日本フードサービス協会の加盟会員社による外食産業市場動向調査が、毎月レポートされている。その直近の2022年3月の業態別売上高を2019年対比で示したのが図表1のグラフだ。
- ※一般社団法人 日本フードサービス協会の公表データより作成
- ※FF=ファストフード、FR=ファミリーレストラン、DR=ディナーレストラン
この一年、営業時間短縮や人数制限などの制約を受けたり、テレワークの広がりや企業の会食自粛で外食機会が失われる中でも、FF業態は昨年からコロナ禍前の2019年を上回る売上を上げている。
その一方、真逆にあるのがパブ・居酒屋業態で、各都道府県の判断に翻弄され続け、一喜一憂を繰り返し、厳しい経営環境が続いている。立地や客層によって差はあるだろうが、都市部の駅周辺に店を構えていた店は、在宅勤務が広がり通勤客が減ったことと、企業側の会食等の自粛姿勢が客足に大きな影響を与えた。
最もテレワークが浸透した時期には、社員の何割を在宅にするかというよりも、何人出社させるかといった状況になり、オフィス街や駅周辺は驚くほど閑散とした状況が続いた。 ウィズコロナに舵が切られ始め在宅勤務者は減っては来たものの、いまだに6割を在宅とする方針の企業も多い。
また、テレワークという働き方が職種によって生産性を高めたという声もあり、わざわざ出社したり訪問するよりも、オンライン面談を望むケースも増えている。 こうした状況から、日常的な外食を主とする業態への転換や、住宅街に近いロードサイドなどへの出店を進める飲食店も増えた。
だが、働き方が完全にコロナ禍前に戻ることはないにしても、人は必ず元の生活スタイルへと戻るはずだ。
進むショートタイムショッピングとクイックサービス
好調なFF業態の中でも、図表2のように売上高に差が見られる。ハンバーガーなど洋風業態はコロナ禍前の120%に届きそうな数字を上げているが、それ以外の業態は100%を割り込んでいる。
- ※一般社団法人 日本フードサービス協会の公表データより作成
ポイントはショートタイムショッピングにあるのだろう。新型コロナウイルスの感染拡大以降、スーパーマーケットやコンビニで大きく変わったのは、店内滞留時間が大きく減ったこと。
収束に向かってはいても感染リスクはゼロではない。コロナ禍前までは、店での滞留時間を長くして買上点数を増やそうとしてきたが、できるだけ短時間で必要な商品を探し、レジはセルフ会計という流れが定着した。スーパーでは7割〜8割が非計画購買であったが、計画購買の比率も増えている。
飲食店でもハンバーガーチェーンが強みを発揮しているのは、オーダーから会計までの時間が短く、店内に限らず車でも自宅でも公園でもあらゆるところで食事を出来るという、いわゆる自由度の高いワンハンドフードであり、小売業的な性格が強いことだ。
また、テイクアウトやデリバリーが好評なのも、コンタクトレスあるいは時間節約が望まれているからで、そうしたニーズをとらえていち早くモバイルオーダーやセルフオーダー、セルフ会計システムを導入した点もFF業態が好調な要因であろう。
また、レストランでは、人手不足もあって自動走行する配膳ロボットの導入が進み始めた。こうしたシステムは、オーダーシステム同様、いずれ必須アイテムになるのではなかろうか。
ウィズコロナからアフターコロナでライフスタイルは元に戻る!?
コロナ収束で、働き方やライフスタイルが全て元通りになるという確証はない。ただ、話題になった地方移住、ワーケーション、二拠点生活などが、このまま定着するとも思えない。
現に人口流出が続いていた東京都も流入が増え始めている。移住先や別荘地として人気の長野県では、2020年こそコロナ禍で移住者が増えたといった報道があったが、相変わらず人口減少が続いている。働き方や生活観など価値観が変わったところはあるが、結局、便利な生活を求める人は多い。
地方で暮らせる人は、職種によってかなり限られるし、都会暮らしで便利な生活に慣れた生活者には、地方での生活になじめず都会へ戻る人も多いと聞く。また、ワーケーションや二拠点生活での働き方が出来るのは、自由な働き方ができる一部の職業であり、コストもかかることから富裕層に限られる。
ウィズコロナ生活が進み収束に向かう中で、コロナ禍前の働き方やライフスタイルに戻ることが予想される。
必ずやってくる!リベンジ消費とインバウンド
日本銀行が2021年4月に発表した「経済・物価情勢の展望」で、強制貯蓄というコロナ禍の影響下で消費機会を失ったことなどで使えなかったお金が、2020年中に約20兆円(一人当たり10万円の特別給付金からの貯蓄は除く)あったとしている。 可処分所得の7%に相当するとのことで、これがストレス発散のため外食や旅行などの支出にまわることが期待されている。
今年のゴールデンウィークでは、家中消費もあった一方、これまでの鬱憤を晴らすかのように、海外旅行を含めイベントや外食などレジャーへの支出は増えている。
また日常を取り戻しつつある企業では、会食の自粛要請は弱まり、大人数の宴会などは除き、少人数での飲み会や接待での会食機会がもとに戻りつつあるようだ。
このまま収束に向かえば、客層によって違いはあるものの元の賑わいが戻ってくるはずだ。
ただし、どの店も同じかと言えばそうではない。警戒心は残り、ソーシャルディスタンスなど、店の感染対策への取り組みが店選びに影響する。
また、今回のゴールデンウィークで始まったように、入国制限の緩和が進めば、必ずインバウンドは戻ってくる。
国土交通省によれば、2019年の訪日外国人旅行消費額は、4兆8,135億円。そのうち21.6%が飲食費で、約1兆400億円になる。店内が外国人観光客でいっぱいといった光景が見られる店も出てくるはずだ。
2022年の懸念事項
ウィズコロナ生活が始まり、大きな期待がかかる中、飲食店の経営を脅かす不安材料もある。
金融緩和策を続ける日本銀行に対して利上げを進めるFRB(米連邦準備制度理事会)との間の金利差が広がり円売りドル買いが進み、1ドル130円に迫るなど20年来の円安水準となった日本。食糧自給率が低く輸入に頼るため、食品をはじめとしてガソリンや建築資材、公共料金まで、あらゆるものの値上げが続く。
一方で、賃金は簡単には上がらない。日本の平均賃金は年収で約424万円。406万円だった1990年からわずか18万円しか上がっていない。
一方、アメリカの平均賃金は上昇を続け、763万円と日本の約1.85倍。日本はお隣の韓国の平均賃金をも下回っている。
外食業界が好調の時には、日本の外食産業の賃金は安すぎるといった声が上がったが、値上げは慎重に行う必要がある。
これまで賃金が上がらなくても不平不満の声が比較的少なかったのは、物価が安く安定していたこと、すなわちデフレと言われる状態にあったからだ。物価高でインフレへと状況が変われば、生活が苦しくなる人は多い。当然財布の紐は固くなり、消費に対し慎重になる。
また、平均ではみえてこない賃金格差が広がっている。平均所得が1,000万円を超える港区の住民がいる一方、多くは300万円に届かない市区町村がほとんど。 スーパーマーケットやコンビニの必需品の値上がりで生活防衛も進む中、賃金の値上げは慎重に行わなくてはならないだろう。
また、人手不足による求人難と時給の上昇、さらに社会保険適用枠拡大などあり、企業にとっては人件費の上昇は避けられないだろう。さらに物流配送に関わるコストも、ネット通販の急拡大など急激な需要増に人手不足が続き上昇の一途である。当然デリバリーも同様で、配達員の不足と賃金上昇は、飲食店の配達手数料のアップにもつながる可能性が高い。
そして経済活動が元に戻ってくれば、人の取り合いは更に激しさを増す。また、営業時間を短縮したことでシフトに入れないことが増え、飲食店の仕事が好きでもやむなく別の仕事へ移った人が、どの程度飲食店に戻って来てくれるかは不透明だ。
2022年は、飲食店でもセルフ化やロボット導入が進み始め、飲食店とはこうあるべきといった営業スタイルの転換点になりそうだ。
月刊飲食店経営 毛利 英昭氏
コンサルティング会社に16年間在籍後、2007年4月に独立し(株)アール・アイ・シー設立。外食・小売業界を中心に業務改善やシステム構築分野のコンサルティングと社員教育などを中心に活動。
2015年に商業界から、「月刊飲食店経営」「月刊コンビニ」の出版事業を引き継ぎ、現在は編集長を兼務している。
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