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コロナ禍で来客数が8割減!貫いてきたポリシーを変えて踏み切った通販とデリバリー
人気ラーメン店 麺屋武蔵 矢都木社長に聞く!コロナ禍での店舗生存戦略【連載コラム第1回】2021年09月15日 カテゴリ:コラム
インタビュー:株式会社麺屋武蔵 代表取締役社長 矢都木 二郎氏
コロナ禍で多くの飲食店が苦境に立たされるなか、これからの飲食店経営者には何が求められているのでしょうか?
厳しい時代を柔軟に生き抜くための取り組みや戦略を、株式会社麺屋武蔵の代表取締役社長・矢都木二郎氏に聞きました。
同社がこれまでに取り組んできたことや、そのバックグラウンドにあるもの、社内コミュニケーションや人材育成で注力していること、危機発生時に飲食店経営者が意識したいマインドなどについて5回連載でお届けします。
顧客体験にこだわるも、コロナ禍で大打撃
1996年創業の同社は、ラーメン店『麺屋武蔵』を都内に15店舗展開。また、香港や台湾、シンガポールなど海外8箇所にも進出を果たしています。各店舗が独自にメニューを開発し、その店舗でしか食べられない商品を提供している点も特徴です。
同社では、新型コロナウイルスの影響が本格的に現れ始めた2020年3月頃から通販とデリバリー、テイクアウトを開始。実はコロナ禍以前は、これらのいずれも一切実施していなかったそうです。その理由について、矢都木氏はこう話します。
「私たちは“一杯にして一杯にあらず”という考えのもと、お客様体験を大事にしてきました。お店に来ていただいて暖簾をくぐってから出ていくまでの時間に対してお金をいただきたいという思いが強かったので、テイクアウトやデリバリーなんて論外だと思っていました」
“店舗での体験を重視する”というこだわりは徹底していました。東京ラーメンショーなどのイベントへの出展も、顧客体験をコントロールできないという理由から行っていなかったそうです。
「イベントの場合、器を発砲スチロールにしないといけないし、レンゲもプラスチックになります。お客さまが食べる場所をコントロールできないので、サービスをすることもできません。それを否定するわけではないのですが、私たちはそういうスタイルで商品を提供するのは嫌だなと思っていました。同じ理由でフードコートにも出店していません」
ストイックに信念を貫いてきた同社ですが、コロナ禍によってそのこだわりを一旦手放してでも方針を変える必要に迫られました。
「当時、時短営業要請はまだ出されていなかったので、通常の営業時間で店舗を開けていましたが、お客さまの数は8割減という状況でした。生き残るためにはともかく何でもやらないといけないという思いから、矢継ぎ早に通販とテイクアウト、デリバリーをスタートしました」
当初は「手動」で通販受付に対応、システム導入でスムーズに
開始当初、通販はウェブサイトの問い合わせフォームを使って注文を受け付けていました。フォームの通信欄に書かれた注文内容をスタッフが手作業で確認して対応。非常に手間がかかっていたそうです。
その後、インターネット販売プラットフォームを利用するようになり、スムーズな受付や管理が可能になりました。現在は公式サイトから販売ページに移動して商品を購入できる仕組みになっています。
初めての取り組みだったことから、パッキングや梱包など、あらゆることが手探り状態。試行錯誤を繰り返しながらスタイルを確立していったそうです。
販売自体は順調で、SNSやプレスリリースなどで通販開始を周知すると、比較的すぐに注文が集まるようになったといいます。
「都内にしか店舗がないこともあり、普段は足を運べない地方在住の方などにも喜んでいただけたようです」
店舗にはキャッシュレス・非接触の券売機も導入
実店舗では、飛沫防止シートや客席間のアクリル板、入り口への消毒液設置といった基本的な感染対策に加え、非接触のための環境を整備。
「ちょうど外国語対応のために券売機の入れ替えを進めている時期ではあったのですが、コロナ禍を機にキャッシュレス対応の券売機を導入しました」
券売機は、食券が購入されると厨房にその内容が通知されるシステム。キャッシュレス化と同時に、食券受け渡し時の接触回避も可能にしました。
さらに、混雑状況を配信するシステムも導入。来店前に店内の混み具合や行列しているかどうかを確認できるようにしました。
スタッフの反応は?
これまでポリシーとしていたことを大きく変えざるを得ない状況となりましたが、スタッフからの反発や不満の声はなく、スムーズに理解を得られることができたそうです。
「そんなことを言っていられない状況だということは、スタッフも察してくれたのだと思います。当社では日頃から、自助・自立を重視した人材教育を実施しており、『一人一人が自立して働いているという意識をもつように』とスタッフに伝えています。その下地があったことで、“面倒でも不本意でも、存続のために今はやらないといけない”という意識を共有できたのではないかと思っています」
1年続けたことで、オペレーションもこなれてきた
来客数8割減という大打撃を受けながらも、メニューの値下げやスタッフ給与の削減などは行わずに乗り切った同社。1年数か月が過ぎ、店舗の来客数も一時期より回復したそうです。
「それでもまだ、全快とは言えない状況なので、通販とデリバリー、テイクアウトの売上を足しながら、なんとか維持しているのが現状です。私たちのオペレーションも初期の頃よりこなれてきましたし、利用されるお客さまもだいぶ慣れてこられたので、当初よりスムーズに回るようになったと感じています」
危機を乗り切ることができた背景には、同社がこれまで大切にしてきた価値観が大きく影響しています。次回はそのバックグラウンドに迫ります。
株式会社麺屋武蔵
代表取締役社長 矢都木 二郎氏
2001年 麺屋武蔵に入社後、2013年「株式会社 麺屋武蔵」代表取締役 社長に就任。創業者、山田 雄のイズムを継承し、常に「革新的で上質」なラーメン店作りを目指す。ラーメン界の新しい取り組みとして、コラボレーション商品を多数提案、ロッテ、獺祭、などメジャーな所から、生産者や自治体など、マイナーな所まで、幅広くコラボレートして、多くの革新的なラーメンを生み出す。「チョコレートからフルーツまで、ラーメンにできない食材はない」と豪語する。「ラーメンの無限の可能性に挑戦する男」ラーメンの創作活動の傍、経営者として、業界の職種的地位向上に尽力。職場環境、待遇の積極的改善、「料理ボランティアの会」を通じてのボランティア活動などを積極的に行っている。
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