サイト内の現在位置を表示しています。
「少しでもファンに喜んでもらいたい」
危機を乗り切る強さの裏にある価値観とは?
人気ラーメン店 麺屋武蔵 矢都木社長に聞く!コロナ禍での店舗生存戦略【連載コラム第2回】 2021年09月28日 カテゴリ:コラム
インタビュー:株式会社麺屋武蔵 代表取締役社長 矢都木 二郎氏
コロナ禍で大きな打撃を受けながらも、通販やデリバリー、テイクアウトをいち早くスタートして対処してきた同社。危機を乗り切ることができた背景には、同社がこれまで大切にしてきた価値観が大きく影響しています。
連載第2回目の今回は、同社のポリシーである「体験を売る」が意味することや、同社のこれまでのヒストリーについて聞きました。
売っているのは「体験」、ラーメンはツールに過ぎない
顧客体験を重視し、「ラーメンではなく体験を売る」ことをポリシーとしている同社ですが、飲食店なのに売るのは料理ではないという考え方は、少し不思議な印象も受けます。これについて、矢都木氏はテーマパークに例えて次のように説明します。
「たとえばディズニーランドは、特定のアトラクションに乗るために行くのではなく、あの空間に入るためにお金を払っていると思います。入場券や乗り物券という形ではなく、1日パスとしてチケットが売られているのもそのためでしょう。
ディズニーランドという空間で過ごす体験そのものに価値があり、その体験のひとつとしてアトラクションがあります。私たちにとってのラーメンも同じで、お客さまの体験に対してお金を頂いていて、ラーメンという商品はそのツールに過ぎないと考えています」
店舗体験を楽しんでほしいという思いは通販でも生かされています。同社の通販サイトでは、つけ麺やチャーシュー・角煮セットといった商品に加えて、オリジナルユニホームや店舗で使用しているものと同じラーメンどんぶり、さらには「すべての器まとめ買いセット」といったアイテムも販売されています。矢都木氏は「悪あがきみたいなもの」と謙遜しながらも、その背景をこう話します。
「今までのような店舗体験はできなくなってしまいましたが、そんな今の状況でもできることはあると思い、社内でアイデアを出し合いました。ただ通販で商品を売るのではなく、少しでもファンの人に喜んでもらうにはどうしたらよいかをいつも考えています」
創業は1996年、宮本武蔵にちなんで店名を決める
『麺屋武蔵』は、1996年に先代である山田雄氏が創業しました。「武蔵」という店名は、異業種の出身で独学でラーメンを学んだ山田氏が、師匠を持たずに独自の方法で道を切り開いた剣豪・宮本武蔵のスタイルに惹かれ、「世の中に出ていない目新しいものを発掘してオリジナルを提示したい」と考えて決めたものだそうです。
当時はちょうど、インターネットが普及し始めた時期でした。それ以前は、ラーメン好きがおいしい店についての情報を得る手段は口コミやテレビ、雑誌程度しかありませんでしたが、インターネットという新たなツールが登場したことで情報が広まりやすくなったことも追い風になり、「行列のできる人気店」として注目されるようになりました。
ちなみに、店名に「麺屋」を使ったのは、業界では同社が初めてなのだとか。今でこそ「麺屋」のつくラーメン店は珍しくありませんが、その先駆者が麺屋武蔵だったのです。
「先代は『オリジナリティーの高いものを出していきたい』という強い思いを持っていたので、あえてラーメンとは言わずに、独自の表現を選んだのだと思います」(矢都木氏)
矢都木氏が同社に入社したのは2001年のこと。それまではサラリーマンをしていたという矢都木氏は、当時をこのように振り返ります。
「大学時代からつけ麺が好きだったので、大学卒業時にラーメンの世界へ入ることも考えたのですが、そのときは踏ん切りがつかずに普通に就職しました。2年ほどサラリーマンを続けたのですが、やはりラーメン業界で仕事をしたいという思いがあり、チャレンジすることに決めました」(矢都木氏)
当時は創業者の山田氏も自ら厨房に立っていたことから、麺屋武蔵はどうあるべきか、スタッフはどう考えどう行動するべきかといったマインドを直接学んだそうです。
入社3年目に御徒町の「麺屋武蔵 武骨」の店長を任され、その後、麺屋武蔵 新宿総本店」の店長を経て、2013年には2代目の代表取締役に就任しました。
「独立ありき」ではなく、自分がどうなりたいかを考える
当初は独立を視野に、修行のつもりで入社したという矢都木氏ですが、結局、独立はせずに2代目経営者となっています。独立することに未練はなかったのでしょうか?
「独立は目的ではなく、あくまでも手段だと思っています。『自分がどうなりたいか』というビジョンが先にあって、そのための手段のひとつとして独立という選択があります。
独立をしたいと思ったときには、「独立して実現したいと思っていることは、本当に社内でできないことなのか」を考えてみましょう。もし、社内でできることであれば、社内で実現したほうが近道かもしれません。私はたまたま、会社にいた方が自分のなりたい姿になれると思ったので、会社にとどまることを選びました。『独立ありき』ではなく、自分がどうなりたいかを重視して考えることが大切だと思います」
独立についての矢都木氏自身の考え方は、機会あるごとに社内のスタッフにも伝えているそうです。そんな同社は、社内の人材育成にも注力しています。次回は、スタッフを育てるために重視していることや、社内コミュニケーションについて、同社が導入するユニークな制度について紹介していきます。
株式会社麺屋武蔵
代表取締役社長 矢都木 二郎氏
2001年 麺屋武蔵に入社後、2013年「株式会社 麺屋武蔵」代表取締役 社長に就任。創業者、山田 雄のイズムを継承し、常に「革新的で上質」なラーメン店作りを目指す。ラーメン界の新しい取り組みとして、コラボレーション商品を多数提案、ロッテ、獺祭、などメジャーな所から、生産者や自治体など、マイナーな所まで、幅広くコラボレートして、多くの革新的なラーメンを生み出す。「チョコレートからフルーツまで、ラーメンにできない食材はない」と豪語する。「ラーメンの無限の可能性に挑戦する男」ラーメンの創作活動の傍、経営者として、業界の職種的地位向上に尽力。職場環境、待遇の積極的改善、「料理ボランティアの会」を通じてのボランティア活動などを積極的に行っている。
他のコラムを読む