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財務会計の重要性
経営コンサルタント伊藤 敏克氏の視点から見る外食産業2021年3月30日 カテゴリ:コラム
執筆者:ビジネスコンサルティング・ジャパン株式会社 伊藤 敏克
事業活動の結果は数字に表れる
事業活動の結果はすべて数字に表れます。顧客の貢献度、店舗運営の効率性、事業活動の収益性、成長投資の効果測定など等、数字を見れば会社経営のあらゆる面の良し悪しが簡単に分かります。数字は事実であり、客観的な情報ですので、会社経営に数字を活用するほど、判断と決断の根拠精度が高まり、失敗リスクが低下します。

数字はシンプルに捉える事が大切
数字に苦手意識を持っている経営者は少なくありませんが、難しく考える必要はありません。例えば、車の運転は、スピードメーター・燃料計・水温計の3つの数字さえ分かれば、老若男女、誰でも安全に運転できます。会社経営も一緒です。財務諸表に記載されている「現預金・純資産・売上・粗利・営業利益」などの重要な数字を見るだけで上手に運営できます。なお、これらの数字は常に増加傾向が良好を表し、減少傾向は不調を表します。毎月、数字を追いかけるだけで、経営状況の理解が深まり、先手先手の会社経営の実践ができるようになります。
具体的には、好調時は今の取組みがマッチしている証拠ですので、更に積極化すれば売上が増えますし、不調時は今の取組みがマッチしていない証拠ですから、一旦立ち止まって方針転換することが売上回復の一手になります。
目標とすべき原価率と経費率は?
飲食店が目標とすべき原価率と経費率はどの程度なのでしょうか。飲食店(食堂・レストラン)の平均的な原価率は25%前後、粗利高経費率は95%前後です。最終利益は粗利に対して5%程度ですから、優良企業に比べると著しく低い水準です。そもそも、平均値は、少数の好調企業の成績を多数の不調企業が足を引っぱる構図で計算されるので、目標に掲げても、一生、好調企業に追い付くことはできません。ですから、原価率は1%でも下げる努力目標を掲げ、粗利高経費率は優良企業の水準といえる80%以下を目標に掲げることをお薦めします。
- 原価率=(原価÷売上高)×100
- 粗利高経費率=(経費÷粗利高)×100
原価率を制する者が勝者になる
飲食業にとって原価率は最も重要な経営指標といっても過言ではありません。原価を1%でも引き下げる努力を続けることはもちろんのこと、メニューごとの原価率の設定を慎重に進めることや、原価率から店舗立地やターゲット顧客を最適化することも重要です。業績不調の飲食店に限って原価率の扱いが雑です。飲食業における原価率は主に材料費の割合のことですが、例えば、材料が250円でメニュー価格が1,000円であれば、(250÷1,000)×100=原価率は25%になります。原価率はメニュー構成全体で目標の範囲内に収まっていれば問題ありません。
例えば、店舗の集客力を高める目玉メニューは原価率を高めに、前菜やドリンク類は原価率を低めに、というようにメニュー構成全体で適正バランスをとる工夫が肝になります。また、原価率は低くなければならないという決まりもありません。客単価が高いレストランや家賃等の固定費が少なく、なお且つ、お客様の回転率が高いお店であれば原価率30-40%でも成り立ちます。
飲食業に役立つ経営指標
飲食業に役立つ経営指標を紹介します。客単価、顧客回転率、来店客数、廃棄率、一坪単価です。何れも、財務諸表の分析と共に活用すると店舗運営の精度が高まります。
客単価
客単価とは、1客あたりの売上のことです。例えば、全体の売上が月100万円で、月の来店客数が100名であれば、100万円÷100名=客単価は1万円になります。客単価は店舗の性格(コンセプト・メニュー構成)を決める経営指標でもあります。例えば、高級店であれば客単価を高めに設定する必要がありますし、大衆店であれば客単価を低めに抑える必要があります。
顧客回転率
顧客回転率とは、定員人数(席数)の回転を表す経営指標です。例えば席数20の店舗に、1日100名の顧客が来店した場合、100名÷20席=顧客回転率は5回転になります。顧客回転数が高ければ、売上原価が多少高くても利益が残りやすいです。逆に、顧客回転率が低ければ、売上原価を低く抑えないと利益の確保が難くなります。
来店客数
来店客数とは、来店したお客様の人数のことです。全体の売上は、来店客数×客単価で計算できますので、売上を増やすには、来店客数か客単価の何れかを上げる努力が必要になります。来店客数を上げるにはリピーターを増やすことが有効ですが、そのためには、一期一会を大切に、常に良い印象や感動を与えることが重要になります。
廃棄率
廃棄率とは、材料の廃棄割合を示す経営指標です。例えば、1,000円分の材料のうち、100円分を廃棄処分した場合、(100÷1,000)×100=廃棄率は10%になります。廃棄率を下げる工夫は様々あります。例えば、有機無農薬の野菜は丸ごと食材として使えますが、普通の野菜は残留農薬のリスクがあるので皮の部分は廃棄しなければなりません。このように、使う食材ひとつで廃棄率が変わるので、食材選びは廃棄率を加味したトータルコストで考える必要があります。
1坪売上
1坪売上とは、店舗1坪あたりの売上のことです。例えば、店舗面積が20坪で、月の売上が100万円であれば、100万円÷20坪=1坪売上は5万円になります。1坪売上は、1坪スペースあたりの収益性と効率性を計る経営指標でもあります。例えば、1人来店が多い飲食店が、1人掛けのカウンターテーブルを主体にレイアウトすると、1坪売上が上がります。逆に、1人来店が多い飲食店が、4人掛けテーブル席を主体にレイアウトすると、1坪売上が下がります。このように、1坪売上は、来店ニーズのミスマッチを探る指標としても有効活用できます。
数字よりも大切なこと
飲食業において、数字の活用はとても大切ですが、それ以上に大切なことは心のこもったサービスと美味しい料理を提供することです。家庭の食卓では味わえないサービスや料理が外食の付加価値であり、顧客の感動の源泉になるからです。
そして、もう一つ、数字よりも大切なことがあります。それは、仕事に関わるスタッフを大切にすることです。外食のお客様は、提供される料理の美味しさだけでなく、スタッフとの関わりから喜びや感動を大きくします。ホールスタッフの接客、飲料をエスコートするソムリエ、料理を仕上げるシェフや食材を提供する生産者など等、お客様に接するスタッフの働きぶりが良ければ、自然と顧客満足度が高まり、お店の評判が高まります。お店に関わるスタッフだけでなく、時には、生産者も育てる意識を持ち、沢山の人財を育てる姿勢が事業繁栄の基盤を盤石にします。なお、人財育成の具体的方法論については、次回のコラムで詳しく解説します。是非とも、ご覧ください。
ビジネスコンサルティング・ジャパン株式会社
代表取締役社長 伊藤 敏克氏
ビジネスコンサルティング・ジャパン(株)代表取締役社長。業界最大手の一部上場企業に約10年間在籍後、中小企業の経営に参画。中小企業経営の傍ら、法律会計学校にて民法・会計・各種税法を習得し、2008年4月に、ビジネスコンサルティング・ジャパン(株)を設立。会社設立後は、経営コンサルタントとして様々な会社の経営指導を行う。経営者への指導実績は100名以上、経営コラムのメルマガ会員は2,000名以上、あらゆる業種の経営指導実績も多くあり、営業利益20倍、現金残高60倍、キャッシュフロー1億円改善等の指導実績がある。事業再生・再構築の経験も豊富。各業界団体の講演実績も多数。主な著書「小さな会社の安定経営の教科書」

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