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IT活用とコスト削減
経営コンサルタント伊藤 敏克氏の視点から見る外食産業2021年2月26日 カテゴリ:コラム
執筆者:ビジネスコンサルティング・ジャパン株式会社 伊藤 敏克
企業の競争優位性はIT活用とコスト構造で決まる
コスト削減は後退を意味するとの主張をたまに見かけますが、コスト削減は“後退に非ず”です。企業の存続はコスト削減の実践度で決まります。なぜなら、ライバル企業よりも少ないコストでより良い商品やサービスを提供することでしか厳しい市場競争を勝ち抜くことができないからです。コスト削減には限界があると思っている経営者も多いかも知れませんが、そんなことはありません。コスト削減のネタは、社会インフラの進化や技術革新と共に生まれるので無限にあります。
飲食業においては、調達コスト削減に役立つ物流インフラの進化や運営コスト削減に役立つセルフオーダーやキャッシュレス化等のITシステムが典型です。つまり、徹底的にコストを削減したとしても、世の中が進歩する限りは、コスト削減の限界は訪れないのです。世界規模で躍進している大企業や盤石な成長を遂げている新興企業ほどコスト削減に貪欲で、事業活動にしっかり定着させています。
そもそもコストとは何か?
飲食店を運営するには、家賃、食材費、水道光熱費、広告宣伝費、シェフやホールスタッフの人件費など等のコストがかかりますが、全てのコストは売上を作るために費やすものです。ですから、費やしたコストがすべて売上に貢献していれば、無駄なコストが一切なく、費用対効果が最大化されているといえます。しかし、すべてのコストが売上に貢献している会社は存在しません。どんな会社にも、売上貢献度の低いコストや全く売上に貢献していないムダなコストが存在します。こうしたムダなコストは、経営者の油断や怠慢によって生み出されるだけでなく、世の中の進歩から後れをとることでも生み出されます。ですから、会社内部だけでなく、会社の外に対してもアンテナを張って、最新の情報やテクノロジーに関心を持つことが大切です。また、顧客目線でコストの在り方を点検し、トライ&エラーを繰り返しながらコストの費用対効果を最大化する取り組みも欠かせません。
コスト削減の方法は二つある
コスト削減の方法は大きく二つあります。ひとつは「不要なコストをカットする方法」、もう一つは「生産性を改善してコストを削減する方法」です。コスト削減は、後者の方法が重要です。なぜなら、不要なコストをカットする方法では何れ限界点が訪れ、継続性のあるコスト削減が定着しないからです。普段から余分なコストがさほどない中小零細企業であればなおさらです。生産性を改善してコストを削減する方法であれば、方法論や選択肢が無限に広がり、継続性のあるコスト削減が定着しやすくなります。不要なコストをカットするだけがコスト削減ではありません。いかに柔軟な視点と発想で生産性を改善するかが、コスト削減で大きな成果を生み出す秘訣になるのです。昨今で言えば、ITツールやITシステムの活用は必須といえるでしょう。
コストコントロールの基本
コストコントロールに悩みを持つ経営者はじつに多いですが、成功の秘訣は上位コストをしっかり制御することです。上位コストには、業界特性や経営者の癖が如実に表れますので、この部分のコストが上手に制御されると、会社の競争優位性が飛躍的に高まります。つまり、コストを制する者が市場を制するのです。飲食業であれば、人件費、材料費、地代家賃、水道光熱費、宣伝広告費が上位コストになります。これらのコストを最大限売上に活かしきる、あるいは、これらのコストをライバルよりも低く抑えることが基本になります。コスト削減は前章で解説した方法の他にも、総量規制とゼロベースのコスト削減が有効です。総量規制とは、コストの総量を規制してコストを削減する方法です。目標金額が明快になるので、コスト削減の目標管理と効果測定が容易になります。ゼロベースとは、コストの必要可否を精査しコストを削減する方法です。どんな会社にも売上貢献度が低いコストが混入しています。一つひとつのコストの必要可否を丹念に精査してみると、思いもよらないコスト削減効果が得られることがあります。また、コストゼロで行える笑顔、挨拶、礼儀、口コミなどを積極的に実践することも大切です。
成長投資コストの運用と考え方
コストには、今の売上を作るためのコストだけではなく、将来の売上を作るためのコストもあります。いわゆる、成長投資です。成長投資とは、将来の成長を見込んだ先行投資のことで、先行投資の成果が大きいほど、売上拡大のスピードが加速します。成長投資は、戦術的投資・戦略的投資・中長期的投資の3つに大別することができます。戦術的投資とは、毎年見直すべき成長投資で、広告・チラシ・フェア等の短期的視点で行う成長投資のことです。戦略的投資とは、長期に亘り毎年支出する成長投資のことで、IT化・人材育成・後継者育成・生産性改善などを推進するコストです。中長期的投資とは、改装・設備投資・リニューアル等々、比較的投資金額が大きく、投資効果が中長期に及ぶ成長投資のことです。成長投資のポートフォリオ(下図:投資分散の組合せ例)は、会社を取り巻く経営環境や業界特性等によって変わりますが、自社にフィットした独自のポートフォリオを確立することが肝要です。
この3つの成長投資をバランスよく実践することが、コスト吸収力を高める売上(粗利)の拡大を推進し、収益に対するコストの総量を下げる秘訣になります。不要なコストを削減する一方で、成長投資等の必要なコストを一定の範囲内で許容することも大切なのです。味の評判はピカイチにも関わらず、店舗や調理設備の著しい老朽化や後継者不在が原因で閉店を余儀なくされる飲食店が稀にありますが、こうしたケースは成長投資の欠落が原因で会社が衰退する典型になります。
絶対にやってはいけないコスト削減
最後に、絶対にやってはいけないコスト削減を紹介します。「顧客軽視」、「社員軽視」、「取引先軽視」の姿勢で行うコスト削減です。顧客軽視の典型は、商品の品質や顧客サービスの質を下げるコスト削減です。こうしたコスト削減は、顧客離脱、評判低下、クレーム増加等を招き、業績悪化のリスクを高めます。社員軽視の典型はリストラです。社員は会社発展の源泉であり、会社の宝物です。リストラに手を出すと、組織力低下、人財流出の加速、モチベーション低下等を招き、経営状況が更に悪化する可能性が高まります。取引先軽視の典型は下請けいじめです。下請けや仕入先等に無理を押し付けるコスト削減はどこかで破綻します。下請離反、品質低下、事業構造破綻などの深刻な衰退リスクも噴出します。取引先にコスト削減を求めるのではなく、自助努力でコストを削減して、その結果生まれた利益を取引先と分け合う姿勢が、繁栄の基礎を築く正しいコスト削減の在り方です。この他にも、法律違反、モラル違反、低賃金・サービス残業など等、やってはいけないコスト削減は沢山ありますが、何れにしても衰退する企業ほどやってはいけないコスト削減を平然と行い、誤ったコスト削減がきっかけで衰退スパイラルに陥っています。
ビジネスコンサルティング・ジャパン株式会社
代表取締役社長 伊藤 敏克氏
ビジネスコンサルティング・ジャパン(株)代表取締役社長。業界最大手の一部上場企業に約10年間在籍後、中小企業の経営に参画。中小企業経営の傍ら、法律会計学校にて民法・会計・各種税法を習得し、2008年4月に、ビジネスコンサルティング・ジャパン(株)を設立。会社設立後は、経営コンサルタントとして様々な会社の経営指導を行う。経営者への指導実績は100名以上、経営コラムのメルマガ会員は2,000名以上、あらゆる業種の経営指導実績も多くあり、営業利益20倍、現金残高60倍、キャッシュフロー1億円改善等の指導実績がある。事業再生・再構築の経験も豊富。各業界団体の講演実績も多数。主な著書「小さな会社の安定経営の教科書」
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