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3年で潰れない飲食店に必要なこととは?
経営危機に陥らないために留意するポイント
「月刊飲食店経営」の編集長が語る! 外食業界コラム 2018年07月17日 カテゴリ:コラム
執筆者:月刊飲食店経営 毛利 英昭
「スーと出てきてパーっと消えるからスーパーなんだ」と、昔からスーパーマーケットの商売は難しいと言われてきた。飲食業も根をはるのが難しいから水商売と言われ、事実、中小企業白書などの調査では、多産多死業種の上位に必ず顔を出す(図表参照)。また、少し古い統計データであるが、経済産業省の経済センサスを基に事業所開業存続廃業状況を調べた資料によれば、平成18年〜21年の飲食店の開業率は11.2%なのに対して廃業率は24.4%と、開業の倍以上の廃業率となっている。
開業後の廃業率については、公的機関のデータは見つからないが、居抜き情報.comの調査によると、3年〜5年後の飲食店の閉店率は21.0%にもなるという。
だが、開業率が高いというのは、飲食業はそれだけ夢のある魅力的なビジネスだから、勝ち組と負け組の明暗ははっきり分かれる。
立地は慎重に考えよう
店を始めるときの最大の意思決定は、立地であるといっても過言ではない。どんなにマネジメントに長けていても、立地は変えられずコントロールも不可能であり、立地で苦労するほどつらいことは無い。
立地選定の失敗には2つの視点があると思う。一つは、物件探しの段階だ。個人が開業するときに資金が潤沢という人は少ない。そこで、一等地から離れた、手の届きやすい賃料の物件を探すようになる。結果として二等地や路地裏といった場所で妥協するケースがある。
ブランド力も知名度も低い個人店が、路地裏で繁盛するなど、万に一つと言うほど簡単なことではない。ここであればという立地が探せなければ、潔く見送って別の場所を探したり、時期をずらすことも大切だ。
2つめは、十分な調査をしていないこと。神戸市の三宮で大成功したチェーンの社長は、震災後の復興時期に飲食店を始めたが、長期間、朝から晩そして深夜も毎日三宮駅周辺を歩き回り、人の流れを観察した。そこで、復興途中でやっと明るい兆しの見え始めた繁華街の中心から、帰りにタクシーを拾いやすい場所へ歩く人の流れを見つけ、その動線上に深夜営業に重点を置く居酒屋を出店。狙い通り、タクシーでの帰宅を余儀なくされたお客が、どうせ帰りはタクシーだからと寄り道してくれるようになり、大繁盛店となって一気にチェーン化した。自分の目と足でしっかり実査したことで、見事に宝の山を見つけたのだ。
最悪のシナリオを考えた資金計画を考える
オープンして1年もたたずに閉店する店がある。多くは、店を開ければ客が来てくれるという錯覚が原因だ。コンビニや外食チェーンのように、誰もが知るような店であれば、開店直後からお客も来るが、個人が開業した店にお客が来るのは“奇跡”といっても過言ではない。
従って、開業資金だけで無く、オープン後、3か月はお客が来なくても継続できるくらいの運転資金を考えた資金繰りを考え、最悪のシナリオでも耐えられる計画を立てる必要があるだろう。
損益分岐点の低い店作りを念頭に考えよう
「商売の基本は損益分岐点の低い店作りにある」とは、セブンイレブンを国内2万店にまで成長させた鈴木敏文氏(現、株式会社セブン&アイ・ホールディングス名誉顧問)の言葉である。
存続するには、儲からなくてはならない。それには儲かりやすい店にすることが大切で、損益分岐点を下げる必要がある。飲食店は材料費や人件費など変動費の割合が高く営業後のマネジメント次第で、利益の出る店にできると思い込む人が多いが、これらは準変動費であり、財務分析のテキストとなるように完全に変動費と見なしてはいけない。賃料や設備費、減価償却費、リース料などと合わせると、固定費の割合は高く、店ができあがったときに損益分岐点売上高はほぼ確定する。
そこで重要なのが、開業時に大きな金額となる内装工事費などを抑えることが必要だ。最近では、資材の価格も一昔前に比べて高止まりしており、職人の賃金も上がっている。他店の情報をできるだけ集め、相見積をとるなど、造作の工夫と合わせてコスト削減を徹底する必要がある。
できれば、居抜き物件を狙いたいところだが、開店する業種業態にフィットした内装であるか、また、代替わりを繰り返した店であれば、なにか原因があるはずなので、その理由をしっかり調べる必要もあるだろう。
ファンを作るためのレセプション
レセプションは、単なるお披露目ではない。キッチンとホールのオペレーションや設備に問題は無いかを確認し最終調整すること。そして、来て頂いたお客に期待を超える満足を与えファン化することだ。大きな広告宣伝もできず、ブランド力も無ければ、お客を呼ぶには口コミしか無い。お披露目で来て頂いた知人やお世話になった業者、近隣住民を虜にすることを考えることが、その先の実際の営業に大きな影響を与える。
妥協しない“おいしい”を大切に
「あの店は店主の愛想が悪いけど料理が美味いからつい足が向いてしまう」という声は聞くが、「料理はまずいが、店主が愛想良くサービスが良いから贔屓にしている」といった声を聞くことはほとんど無い。食を提供する商売は、スーパーでもコンビニでも同じだ。特に某コンビニの味に妥協しない姿勢には驚かされる。そうした姿勢があるからこそ、コンビニは5万店を超えてもさらに成長しているのだろう。
「味の感じ方は人それぞれ」と言う人がいる。だが、大戸屋の実質的創業者の故・三森久実氏は「美味しさは世界共通です。うまみはだれでも同じように感じるものだ」と語っておられた。長く続く店には、美味しさの飽くなき追求があるように思う。
店作りは舞台作り。意思の見える店を作る
店作りは、料理と合わせて、どんな感動をお客様に提供するかを表現する重要な要素だ。素人でも店を見れば経営者の思いが見えてくる。いわば経営者の商売に対する熱意と感性が表現されている舞台のようなものだ。
どんな業種の店にも何故そうなっているかの理由が説明できずに、なんとなく作ってしまった店は繁盛しない。看板、エントランス、通路、カウンター、キッチン、客席、トイレに至るまで、微に入り細に入り何故こうしたかが説明できる店であるべきだ。
それには、言い古された言葉であるが事業コンセプトが重要で、下手でもよいから自分の店を作るときには、コンセプトを基にしたデッサンを描いてみるべきだ。絵にすることで、モヤモヤしている自分のイメージを固める事ができるし、何故こうしたいと思うかを考えることができる。
大変有名な飲食店街をいくつも作り上げてきた経営者は、建築士でもデザイナーでもないが、自分でデッサンを描く。書いて消しを繰り返すことでイメージを形にする。
そうすることによって、看板や使用する什器、料理、ユニフォーム、サービスのあり方など、細部が見えて固まってくる。こうして詰めていくことで、スペースや料理、動線を考えた厨房システムや、予約の受付から料理の提供までに必要なITサービスが見えてくるはずだ。
現実と将来を考えたシステムはマストアイテム
損益分岐点の低い店を作ることが大切と書いたが、経営環境をよく考えたシステム投資は不可欠だ。特に昨今は人手不足が深刻さを増しており、若者人口の減少、高齢化の進展を考えると明るい材料は見えない。
そこで、店の規模や業態にもよるが、オーダーエントリーシステムやセルフオーダーシステムは、作業効率アップと従業員負担の軽減に大きな効果を発揮する。
ある居酒屋の店主は、「個人店がPOSに数百万円も設備として投資はできない。しかし、人件費としてなら投資できる」と語っていた。
人手不足からやむなく閉店する店が出るような時代になり、オーダーエントリーシステムやセルフオーダーシステムは設備では無く人に代わる人件費という見方をしてでも開業時に考えておくべきマストアイテムであろう。
月刊飲食店経営 毛利英昭氏
コンサルティング会社に16年間在籍後、2007年4月に独立し(株)アール・アイ・シー設立。外食・小売業界を中心に業務改善やシステム構築分野のコンサルティングと社員教育などを中心に活動。
2015年に商業界から、「月刊飲食店経営」「月刊コンビニ」の出版事業を引き継ぎ、現在は編集長を兼務している。
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