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DX化された会員制サブスクリプション型飲食店の事例

10,000店舗の飲食店に携わってきた分析コンサルタントが語る「飲食店DX」について

2022年09月13日 カテゴリ:コラム

執筆者:株式会社Fun and Pride 代表取締役 前村 佳槻氏

完全会員制サブスク型飲食店とは

サブスクリプションサービス。通称サブスクといわれる仕組みは定額料金を支払い利用するコンテンツやサービスのこと。 商品を「所有」するのではなく、一定期間「利用」するサービスのことをいう。飲食業界でもさまざまなサブスクサービスを導入する店舗が増えており、新しい飲食店のビジネスモデルも登場している。その中でも、非常にDX化されており、新たな収益構造になっていると個人的に感じるのが「完全会員制のサブスク型飲食店」である。

飲食店店舗イメージ写真

完全会員制サブスク型飲食店の仕組み

わかりやすく話をするために、私がビジネス設計を手掛けた1つのモデルを例に解説していくことにする。

店舗概要
店名
肉割烹 誠香
住所
非公開
会員条件
年会費19,000円(会員様からの紹介もしくは不定期に公開される募集からのみ会員登録が可能)
営業体制
18:00~ 20:30~ 2部制 ※完全予約制
料理内容
月替わりのコース+ペアリング 11,000円(税込)

まず注目するポイントとして“住所非公開”の部分だろう。通常、飲食店にとって立地や外観といった視認性は、売上を左右する重要な要素となることが多い。つまり、住所非公開ということは、偶然にお店を知る手段がないということであり、集客が出来るのか?といった問題も出てくるように感じるだろう。

では、お店にはどのように来店することができるのか?
お店を利用するには事前の会員登録が必要になる。年会費は19,000円。この会費を支払い、会員登録が完了すればお店を予約できる権利を得る。会員には専用の予約フォームが解放され、行きたい日時の枠が空いていれば予約が可能になる。予約をするとメールで住所が送られてくる。そこで初めてお店の場所を知ることができるという仕組みだ。
会員は予約ができるとともに、同行者を連れていくことも可能で、非会員の方でも会員に連れて行ってもらえれば、お店を活用することが可能となる。

お店の予約をする権利だけで、年間19,000円の会費を払うのか?そう思われる方も多いだろう。その点はお店の運用部分にからくりが隠されている。月替わりのコース+ペアリングの価格設定である11,000円(税込)は原価率57%の設定がされており、通常の飲食店で同じ内容のコース+ペアリングを体験しようと思えば、18,000円~25,000円はするだろう。それほどのクオリティをこの価格で提供することで、体験者の満足度を最大限に向上させる役割を果たしている。

年会費型サブスクモデルの飲食店では、通常営業時の利益を追求することよりも、通常営業で会員がより大きな満足を得ることで利益を継続できる形になっている。 下記の表を見てもらいたい。

通常の飲食店

飲食代金、利益、原価等の割合

会員制

会費、飲食代金、利益、原価等の割合

会費が利益と見込めるため
高い原価率を設定できる=顧客満足度向上

通常の飲食店では、お客様からいただく飲食代金に原価や人件費、家賃、光熱費など諸々を差し引いて残ったものが利益として得られる。つまり、通常営業の運営に利益を換算して経営を行う必要がある。

一方で年会費型の会員制飲食店では、飲食代金とは別で支払われる年会費が利益として得られるため、通常営業では利益度外視の運営が可能となる。また、利益度外視の営業ができるほど顧客満足度が上がるため、会員の継続率が上がる。そうすると会員一人当たりがお店にもたらす利益も向上するという形になり、永続的に利益体質を保つことになる。

このビジネスモデルの参考にしたのは、会員制スーパーのCostcoだ。同社のIRを見ても、店舗の売上から得られる利益率は非常にわずかであり、利益のほとんどが年会費から得られている。お得だから何度も使う→使えば使うほどお得感を味わえる→お得感を味わえるから会員更新をする。この流れを飲食店にも取り入れようと思ったのが完全会員制サブスク型飲食店の発端である。

完全予約制を設定した理由

飲食店ではスーパーとは違い、席数に制限がある。その分、席数×席回転効率で来店人数が決まってしまうため、席回転効率が悪くなった場合、売上の安定性に欠ける形になる。そのため、同店舗では18:00~・20:30~という2部制を設けることにした。

そうすることで、席数×2回転が最大の来店人数となるため、より多くの会員様にお店を愉しんでもらえるようになる。
また、完全予約制にすることで来店される方の人数や要望を事前に伺うことができ、お店での体験時間をより充実したものにすることができる。そしてこの制度は、顧客管理の視点でもさまざまなデータが獲得できるようになる。

  • 会員がどれくらいの頻度で予約をしているのか?
  • しばらく予約を行っていない会員はどれくらいいるのか?
  • リピート率は?
  • 予約1組当たりの平均人数は?
  • 解約に至った会員は年間でどれくらい利用したか?

などである。もちろん、会員が2年目の更新をする継続率等も把握できるため、そういった顧客に対する来店促しのアプローチも可能である。
2部制、完全予約制の体制はそうした考えの中で必然的に生まれた形である。

オープン前の会員獲得と収益モデルの多様化

私がこのモデルの話をするとよく聞かれるのが、はじめの会員獲得はどのようにしたのか?といった内容だ。これは色々なやり方があると思うが、同店舗で実際に行ったことを話したいと思う。

同店舗ではクラウドファンディングでの告知と会員募集を行うことにした。
あるプラットフォームを活用して、完全会員制であることの告知、オープン前の特別応援でのVIP会員設定、住所非公開、会員のみ予約ができる等のキーワードがうけて、500人以上の会員と1,300万円を超えるご支援をいただくことができた。

肉割烹 誠香のクラウドファンディングページ

約2年前の夏のことである。
当時はコロナウイルス感染症の影響をもろに受け、1回目の緊急事態宣言の真っ只中、街中が静かになっていた。店舗のオープンを控え、さまざまな不安を抱える中でクラウドファンディングの結果には強く励まされ、多くのパワーをいただいた記憶がある。

こうした形やSNSでの告知など会員を事前に集めることのできる戦略は多数存在し、またそういったニーズの多様性も広がってきている時代になった。
年会費型サブスクモデル、予約システムの活用、クラウドファンディング、さまざまな仕組みを掛け合わせて生まれる新たな飲食店のビジネスモデル。今回話した内容はその一部ではあるが、今までの固定概念を払拭し違う視点で考えると、まだまだ飲食店の収益モデルが多様化していく可能性を感じる。

株式会社Fun and Pride
代表取締役 前村 佳槻氏

料理人としてキャリアスタート、その後14年間、料理人・バーテンダー・サービススタッフとして飲食店の現場第一線に身を置きながら新規店舗立ち上げや、メニュープロデュースなど、リアル店舗の0→1を作る仕事を行う。その後、食を中心としたIT広告企業へ移る。飲食店をweb視点と自身の経験による現場視点の両方で分析、各店舗の強みや狙いを活かしたマーケティングで、延べ10,000店舗以上の売上改善のお手伝いをする。また、食のデジタルマーケティングにも取り組み、飲食店がクラウドファンディングを仕掛けるためのビジネスモデルの立案や、サブスクリプション型飲食店の業態開発などのお手伝いを行う。コロナ禍で急加速に拡大するデリバリー・テイクアウトの中食業界にもいち早く参入し、ウーバーイーツや出前館などのデリバリーアプリ上でどうすれば注文率の向上が見込めるか?を研究・分析し、マーケットインの視点で40業態以上を開発。現在では飲食店の開業支援やVRの開発、新ブランドの立ち上げやビジネスモデルの立案など飲食業界の新たなキャッシュポイントを創出するコンサルティングを中心に活動している。

株式会社Fun and Pride 代表取締役 前村 佳槻氏

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