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進む業際化 増える複合業態の魅力と課題
チェーンストアのための経営専門誌「販売革新」の編集長が語る!2023年07月19日 カテゴリ:コラム
執筆者:販売革新編集長 毛利 英昭氏
業種という垣根を越えて、これまでと異なる事業領域へ進出したり、異業種、異業態を組み合わせたりする動きが増えてきている。こうした動きを“業際化”という。
例えば、ファッション専門店が、カフェ運営やレンタサイクルサービスを開始する。コンビニが、コインランドリーやフィットネスクラブを併設するといった取り組みである。観光地などでは、土産物や産直品の販売を行う小売店が、ソフトクリームやかき氷、ホットドッグやホットクなど、ワンハンドフードの販売コーナーを設ける例も多々見られる。
コロナ禍では、コンタクトレス化が余儀なくされ、小売チェーン店では、BOPIS ※1が定着。オンラインで購入して、店のカウンターやロッカーで商品を受け取るといったサービスが急増し、リアル店舗とECとの連携が進んでいる。いわゆるOMO ※2といわれるものだ。これもまた業際化の一つといえる。
米国ではBOPIS、OMOが当たり前となり、話題にすら上がらなくなってきている。ネットでオーダー、決済をすませて店舗のピックアップコーナーで商品を受け取る、または店舗でフィッティングしてから正式に決済するといった買い物スタイルも定着してきた。こうした取り組みによって商品の選択プロセスは短縮され、接客業務がスムーズになる上、来店時の買い増しなどが増え、客単価のアップにも貢献している。
このような業際化、複合業態店舗は以前から存在したが、コロナ禍のような予期せぬ事態におけるリスクの分散や売上アップに繋がるなどの理由で、垣根を越えた業態ミックスが増えているように思える。しかし一方で、業務が煩雑になるなど課題もある。
今回は、小売店における複合業態の魅力と課題について考える。
- ※1BOPIS
Buy Online Pick-up In Storeの略。
オンラインで商品を注文し決済。商品は、店舗のカウンター、ロッカー、カーブサイド(駐車場)でのピックアップを選択できるサービス。コロナ禍にコンタクトレス化を求められる中、顧客が最も便利な受け取り方を選択できるようにした。
事前に決済が完了しているため、店舗での会計の手間がなくスピーディー。また、来店することで買い増しなど、購買単価アップも見込める。
専門店チェーンでは、リアル店舗とネット販売の連携が当たり前になりつつあり、さらに便利なサービスへと進化することも考えられる。 - ※2OMO
Online merges with offlineの略。
リアル店舗(オフライン)とオンライン(ECサイト)の垣根をなくし、双方の情報を統合しシームレスな買い物体験を提供する取り組み。
複合業態の魅力と課題
小売店が、取扱商品を増やし飲食サービスを取り入れる狙いは、多様な商品、サービスの提供による集客力アップと売上の拡大にあるのは言うまでもない。
もう40年も前のことだが、 米国の大手書店チェーンでは、コーヒーを片手に本を探し、棚の前に置かれた椅子に座ってコーヒーを飲みながら試し読みをしているような光景が見られ、驚いたものだ。店内での滞在時間が増えることで、本の販売にはプラスになったと聞く。
また、新しい買い物体験を提供するといった側面もあり、こうしたスタイルはすでに日本でも一部見られるようになっている。
こうした併設、複合化で特に目立つのは、衣料品や日用雑貨を扱うファッション専門店が、カフェを併設するケースだ。コーヒーやスイーツの店内飲食やテイクアウト販売をするなど、ファッショナブルなイメージに合う業態ミックスが多い。
専門的な料理と違って、特別な調理技術がなくても提供できるのがメリットで、接客については共通点も多いが、全くの異業種であることから考慮すべき点は多々ある。
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異なる業種であり、従業員のモチベーションを妨げないか
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人手不足が深刻化する中、従業員の採用、定着は可能か
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商品作り、提供サービス、清掃など、異なる仕事の習得が必要
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提供する食品の臭いなどが小売販売の妨げにならないか
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食中毒など事故が起こらないように衛生管理の徹底が重要
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小売と飲食サービスという2つのビジネスを行うことで業務が煩雑になる
小売販売に飲食サービスをプラスする場合、調理、食材の保管、テーブルサービスなど、小売店にはない技術や仕事も必要になる。特に、業容を広げることによって業務量が増え、人材の確保とそれに見合う収入が得られるかという基本的な問題がある。
また、小売店では繁忙時に客数が一気に増え、商品が売れるほどレジ会計の仕事は比例して増えていく。そこで問題は人手不足が深刻化している中で、業務の効率を妨げないオペレーションが可能かどうかだ。
特に繁忙時にレジ待ちが発生したりすると、買い物客の不満につながり、再来店の機会を失うことにもなりかねない。レジ前に会計待ちの列を見れば、買わずに帰ってしまう客が出て売上ロスになる可能性もある。また、レジでの違算は信用を失うことにもなる。
レジ会計の対応で考えるべきこと
一般的に物販店と飲食店では、レジに求められる機能やスピードが異なる。物販では、商品点数、買上点数が多いため、商品代金を一つ一つ手入力していてはレジ待ちや違算の原因となる。
そこで、バーコードを使った商品管理が不可欠で、レジ会計がスムーズになる上、誤打によるトラブルもほぼなくなる。また販売データを掴むことで、品揃えや発注に活用することができる。
一方、飲食販売の場合、提供するメニューの種類やイートインスペースの広さ、テーブルサービスの有無にもよるが、レジカウンターや客席で受けたオーダーを、キッチンに伝える工程が発生する。作業動線を削減し効率をアップするために、キッチンにオーダーを伝えるオーダーエントリーシステム を検討しなくてはならないケースも出てくるかもしれない。
このように、小売店向けと飲食店向けのPOSレジでは求められる機能が異なる。
そこで、レジも分ければ良いのだろうが、専任者を置くこともできず、設置スペースの問題もある。それだけでなく、現金管理、売上集計などレジ締め業務が二重に発生すれば、仕事量も倍になる。
2つの業態を運営するために、人の配置もレジも分けるのは、人員確保や人件費に見合う売上が取れるかといった問題もある。最近のPOSレジでは、飲食店と小売店、双方で求められる機能を1台に併せ持つ製品も出てきているので、飲食サービスに物販を加えた店作りを検討される場合には、調べてみるのが良いだろう。
今回は部分的だが、小売機能と飲食機能を持つ複合業態について考えてみた。提供する機能や商品が異なるものを組み合わせるには、店のオペレーションとコストについてよく調べて検討する必要があるだろう。
今回は「販売革新」編集長・毛利英昭氏に複合業態に関するテーマで執筆いただきました。
本コラム内で取り上げている小売・飲食複合業態に対応したPOSレジは、NECプラットフォームズで提供可能です。
物販のバーコード会計、飲食販売のオーダーエントリーシステム(オーダーを入力すると、キッチンに即時で調理指示) が融合した専用システムです。
販売革新編集長 毛利 英昭氏
コンサルティング会社に16年間在籍後、2007年4月に独立し(株)アール・アイ・シー設立。外食・小売業界を中心に業務改善やシステム構築分野のコンサルティングと社員教育などを中心に活動。
2015年に商業界から、「月刊飲食店経営」「販売革新」「食品商業」「ファッション販売」の出版事業を引き継ぎ、現在は編集長を兼務している。