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小売店におけるインボイス制度の留意点

チェーンストアのための経営専門誌「販売革新」の編集長が解説する!

2023年06月28日 カテゴリ:コラム

執筆者:販売革新編集長 毛利 英昭氏

本コラムは2023年6月28日現在の情報をもとに掲載しています。

いよいよ今年10月1日よりインボイス制度がスタートします。すでに取引先との間で法人番号の確認など準備が進んでいるかと思いますが、正式な適格請求書(インボイス)への対応は初めてだけに、「こうした場合はどう対応したら…」といった疑問が多く出てきています。

例えば、適格請求書発行事業者の登録期限や、インボイスの記載事項など基本的なこと、そして特例など、国税庁の「インボイス制度に関するQ&A」に問い合わせの例と回答が掲載されていますので、参考にされるのが良いかと思います。

今回は、小売店の皆様から「こうしたケースは?」といった声を多くお聞きする委託販売と免税事業者との取引における仕入控除に絞って、かいつまんで説明させていただきます。

男性が解説するイメージイラスト

委託販売におけるインボイスの代理交付

ファッション雑貨の専門店などでは、クラフトデザイナーなどから委託を受けて販売しているケースが多々あります。インボイスは、売手(委託者)が発行するものですから、本来は売手(委託者)が購入者に対してインボイスを交付しなければなりません。
しかし、このような専門店などでは、委託者が常に店にいるわけではないため、委託者が販売時点でインボイスを発行するのは難しいでしょう。

そこで、委託販売者(受託者、店)が、売手(委託者)に代わってインボイスを発行できる「代理交付」が認められています。
その場合は、インボイスに各委託者の氏名又は名称及び登録番号を記載する必要があります。

代理交付により複数の委託者の取引を記載して交付する場合の記載例
請求書イメージ
出典:国税庁「インボイス制度に関するQ&A」

複数の委託者からの多数の商品を委託販売する場合

前述のような専門店などであれば、インボイスの代理交付に対応できないことはないかもしれません。しかし、道の駅などでの産直品の委託販売では、売手(委託者)も委託販売品目も多いため、前述のような代理交付は困難です。

そこで、委託販売の受託者(店)が、売手(委託者)に代わって、受託者の氏名又は名称及び登録番号を記載したインボイスを、商品の買手であるお客様に交付することが特例で認められています。このことを「媒介者交付特例」といいます。
この特例を利用すれば、道の駅などで、受託者(店)が一括してまとめて、会計の際にインボイス(レシート)を発行できます。

ただし、媒介者交付特例は、売手(委託者)と委託販売者(受託者)ともにインボイス発行事業者(適格請求書発行事業者)でなくてはなりません。
詳しくは国税庁「インボイス制度に関するQ&A」問48を参照ください。

  • Q&Aは随時更新されるため、文中の問番号は変更されている場合があります。
媒介者交付特例の取引図
媒介者交付特例の取引図
出典:国税庁「インボイス制度に関するQ&A」
受託者が委託者に適格請求書の写しに替えて交付する書類(精算書)の記載例
媒介者交付特例の取引図
出典:国税庁「インボイス制度に関するQ&A」

媒介者交付特例を利用する場合のポイント

道の駅などで販売を委託する農家などの中に、インボイス発行事業者ではない売手(委託者)が含まれる場合は、その売手の商品に関して媒介者交付特例は適用されません。
そこで、国税庁に確認したところ、インボイス発行事業者の委託商品を会計してインボイス対応のレシートを発行できるPOSレジと、発行事業者ではない事業者の委託商品を会計するPOSレジを分けて会計する必要があるとのことでした。

しかし、ここでのポイントは、レジ会計を2つに分けることでなく、インボイス発行事業者の委託商品を販売した場合のインボイス(対応レシート)と、そうでない事業者の委託商品を販売した場合のレシートを分けて発行することです。

POSレジの中には、1台で、インボイス発行事業者の商品はインボイス対応のレシートを発行し、発行事業者以外の委託者からの商品は通常のレシートを発行できる機能を搭載しているものもあります。

このような機能を持つPOSレジであれば、わざわざレジを分ける必要はなく、1台でレジ会計できるため、売場での運用もスムーズになります。
念のため国税庁に確認したところ、このような機能を持つPOSレジがあれば、レジを2台に分ける必要はないとのことです。
委託販売を行っていて媒介者交付特例を利用する場合には、POSレジのメーカーに相談してみることをおすすめします。

ちなみに、同じ委託販売の場合でも、農業協同組合等を通じた産直品などの委託販売では、組合員である農家などは、適格請求書の交付義務が免除されます。
出荷した農林水産物について、売値、出荷時期、出荷先等の条件を付けずに、その販売を委託する無条件委託方式であり、また、品質や等級などで区分し、それぞれの平均した価格で算出する共同計算方式であるため、適格請求書を交付することが困難な取引であるというのが、その理由です。
詳しくは、国税庁のQ&A(問46)を参照ください。

  • Q&Aは随時更新されるため、文中の問番号は変更されている場合があります。

免税事業者から消費税分を課税して請求された場合

同じく小売店や専門店の皆さんからの声が多いのは、今までは免税事業者から消費税を課税された請求書が届いても仕入れ控除ができていたものが、できなくなることにどう対応したらよいかという声です。

まず免税事業者の意味について誤解されている方もいらっしゃるようです。免税事業者とは消費税の納付義務がない事業者であり、消費税を課税してはいけない事業者という意味ではありません。

ここで問題は、仕入れる側(買手)の小売店の方々の仕入控除はどうなるかです。当然ながら事業者番号のない請求書が届いても、そこに記載されている消費税分は控除の対象とならず、全額が仕入れ原価になります。

ちまたでは、免税事業者よりも課税事業者との取引が優先されるのではとか、これまで消費税を課税していた分の値引きを強要されるのでは、といった声があるようですが、これは優越的な地位の乱用になる可能性も考えられます。
ただ、免税事業者という特別扱いともとられる制度があることで、益税につながるといった疑問の声が上がっているは事実です。

こうした免税事業者からの消費税分の仕入控除についての声が大きいためか、国税庁は仕入控除に関する経過措置を設けています。
Q&Aの問110にありますが、「適格請求書等保存方式開始から一定期間は、適格請求書発行事業者以外の者からの課税仕入れであっても、仕入税額相当額の一定割合を仕入税額とみなして控除できる経過措置が設けられています」とあります。
詳しくは、国税庁のQ&A(問110)を参照ください。

  • Q&Aは随時更新されるため、文中の問番号は変更されている場合があります。

小規模事業者の事務負担を軽減する経過措置

家族経営の小売店など、小規模な事業者に対する特例もチェックしておきましょう。基準期間における課税売上高が1億円以下、または半年間の特定期間の課税売上高が5000万円以下である事業者の課税仕入れについて、税込みの支払い額が1万円未満の場合には、帳簿のみの保存で、当該課税仕入れについて仕入税額控除の適用を受けることができる、という経過措置(少額特例)が設けられています。

例えば、小売店が1万円以下の備品を購入した際、購入先からインボイスが発行されなくても、レシートや納品書、そして帳簿に記載するだけで消費税額を控除できます。 国税庁は、これにより事務負担が軽減されるとしています。
詳しくは、国税庁のQ&A(問29、108、109)を参照ください。

  • Q&Aは随時更新されるため、文中の問番号は変更されている場合があります。

インボイス制度については、実際の運用が開始された後も様々な問題の発生が想定され、変更になったり、特例や経過措置が出たりする可能性もあります。
国税庁のホームページをチェックして、疑問がある場合には、消費税軽減税率・インボイス制度電話相談センター、本店所在地の税務署に確認するようにしましょう。

最後になりますが、インボイス制度への対応には、POSレジや販売管理などのシステム対応が不可欠になります。複数税率制度が導入された時も、小売店や専門店で事前にいわれていたような混乱もなくスムーズに移行できたのは、システムを提供するメーカーやベンダーの対応や支援があったからと思います。
今回も早めに方針を決めて、システム対応について相談することも大切です。


今回は「販売革新」編集長 毛利氏にインボイスに関するテーマで執筆いただきました。 NECプラットフォームズの小売業・専門店のPOSレジは本コラム内で取り上げている2023年10月開始のインボイス制度に対応しています。
お気軽にお問い合せください。

販売革新編集長 毛利 英昭氏

コンサルティング会社に16年間在籍後、2007年4月に独立し(株)アール・アイ・シー設立。外食・小売業界を中心に業務改善やシステム構築分野のコンサルティングと社員教育などを中心に活動。
2015年に商業界から、「月刊飲食店経営」「販売革新」「食品商業」「ファッション販売」の出版事業を引き継ぎ、現在は編集長を兼務している。

販売革新 毛利 英昭氏